マスコミの煽りがPCR検査を儲かる商売にした

「陰性証明」というお札(ふだ)バブルの弊害

検査の適応は「医師が必要と判断」するかどうかの一点のみである(「疑義解釈資料の送付について(その12)」令和2年5月15日厚生労働省保険局医療課事務連絡)。症状も曝露歴も必要ない。このような仕組みを最大限活用して莫大な利益を上げている医療機関もある。だが、システムがそうなっているのだからもちろんまったく適法な経済活動である。

このようなインハウス検査が可能な医療機関は、当初は大学病院等の大病院が中心だった。したがって、大学病院の圧力団体がスクリーニングのPCR検査を保険収載すべきというキャンペーンを先頭に立って行った。まったくもって合目的な振る舞いというほかない。

しかし、PCR検査機器導入に関わる公費助成が進んだことと、上記に説明した収益構造から、比較的小規模の施設でも自前でPCR検査を行うところが増えてきている。検査バブルとでも言うべき状況だ。このようなモデルが持続可能なはずはなく、早晩どこかで国ははしごを外さざるをえないだろう。

「目詰まりの除去」でも無制限には増やせない

しかし、実際には検査機器と検査技師をそろえても思いどおりにインハウス検査が進められないという事態も起こっている。最も大きな原因と考えられるのは試薬の不足である。

新型コロナウイルスの感染は世界に拡大しており、8月末時点で、インド(人口13.6億人)で7万人超、アメリカ(人口3.3億人)で4万人超の新規陽性者が毎日出ている。日本では2月から8月末時点までの累積で陽性確認者数が7万人弱であるのと比較すると、これらの数字がいかに膨大であるかわかるだろう。つまり、これだけの数の患者を見つけ出すために、各国で膨大なPCR検査を行っているわけだ。

PCR検査の障害となっているものについて、安倍晋三首相は5月4日の記者会見(緊急事態宣言の延長を表明した会見)で「目詰まり」との表現を用いている。具体的には、上述した試薬不足や検査技師不足に加えて、検査機器整備の遅れ、検体採取に対する医療機関の非協力、検査判断を保健所に集約したこと、疑い患者の診療を行う帰国者・接触者外来を非公表としたことなど、さまざまな要因があった。

これらの目詰まりの一部はすでに解消され、1日当たりの検査実施件数は1月には数百であったが、4月には数千となり、8月末においては2万程度となっている。数として増えたのは事実だ。しかし、それはしょせん程度問題である。より重要なことは、1億2000万人の人口にとっては、どこまで行ってもPCR検査能力という社会的に重要な資源は有限であることのほうだ。

量的拡充は大いに結構だが、それをどれだけ主張したところで本質的な問題は解決しない。ナイーブな「巷の拡大論」に欠けているのは、「限りある資源の効率的な配分」という視点である。

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