日本がこの先に陥ってはならない「日米中の罠」 新冷戦に近い状態の中で求められる外交力

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日中関係でいうと、民主党の鳩山由紀夫政権誕生に当たって鳩山首相が提案した日中主導・アメリカ抜きの「東アジア共同体」がアメリカの激しい反感を買ったことがある。オバマ政権は、鳩山首相の沖縄の普天間基地の「県外移設」発言よりむしろこの「東アジア共同体」構想のほうに不信感を募らせた。

その一方で、中国は米中関係が緊張すると、日本に秋波を送ることが多い。そして、あわよくば日米間にくさびを打ち込もうとする。現在、中国は日本の金融や証券をはじめ大手ビジネスに対して「戦略的秋波」(外務省幹部)を送ってきている。中国証券監督管理委員会が昨年3月、野村証券の中国の合弁証券子会社に51%の出資比率を認めたのがその典型である。

もっとも恐ろしい「日米中の罠」

日本の選択肢は限られている。そもそも、中国との経済相互依存を全面的にデカップリングすることは不可能であり、望ましくない。それは日本の選択肢ではない。さらに、米中対立が軍事対決へと激化すると、日本は実存的に危うい状況に追い込まれる。それが日本の選択肢であってはならない。「日米中の罠」はこれまで以上にさまざまな顔をして立ち現れてくるだろう。けれどもこれからの時代、もっとも恐ろしい「日米中の罠」は、日米が中国を全面的な敵性国(adversary)と決めつけ、それが中国の排他的民族主義を煽り、双方とも後戻りができなくなる状況である。日米中とも相手の意図を正確に把握すること、そしてパーセプション・ギャップを埋めるため、不断の対話をすることが必要である。日本にとっては何よりも外交力と外交センスが求められる。

(船橋 洋一/アジア・パシフィック・イニシアティブ理事長)

地経学ブリーフィング

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『地経学ブリーフィング』は、国際文化会館(IHJ)とアジア・パシフィック・イニシアティブ(API)が統合して設立された「地経学研究所(IOG)」に所属する研究者を中心に、IOGで進める研究の成果を踏まえ、国家の地政学的目的を実現するための経済的側面に焦点を当てつつ、グローバルな動向や地経学的リスク、その背景にある技術や産業構造などを分析し、日本の国益と戦略に資する議論や見解を配信していきます。

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