なかでも日本にとっては、アメリカは唯一の同盟国であり、日米同盟は、日本の外交・安全保障政策の要である。一方、中国は最大の貿易相手国であり、対中貿易は日本の全貿易の21パーセントを占め、対米貿易の15パーセントを上回っている。米中日は、世界1、2、3位の経済大国である。この3カ国の貿易関係と通貨体制は世界経済秩序に大きな影響を及ぼす。
軍事的には中国はなお正面からアメリカを試すことには慎重である。しかし、サイバー空間、グレーゾーン、影響力工作、政治戦などではアメリカに挑んでいる。そして、南シナ海ではここを中国の「閉ざされた勢力圏」とする動きを繰り広げている。いずれ西太平洋をめぐる本格的な米中覇権闘争へと向かう危険がある。日本列島から南西諸島(沖縄、宮古、石垣)、台湾、フィリピン、ボルネオと続く列島群を中国は「第一列島線」と名付け、そこより大陸側の海洋への米海軍力に対するA2AD(接近阻止・領域拒否)戦略を追求している。太平洋国家を目指す中国にとって日本列島は目障りこのうえないバリケードと映る。しかし、アメリカにとっては西太平洋パワーとしてユーラシアへの戦力投射を維持し続けるには日本との同盟は欠かせない。日本は太平洋とユーラシアを両にらみにするところに位置する。日本列島は単なる中立的アセットにとどまる存在ではない。それは恐ろしいほどの戦略的レバレッジを持つ位置にあるのである。
「自然は3者を嫌う」
人間社会同様、国際政治においても3者の関係は落とし穴の多いやっかいなものである。アリストテレスは「自然は真空を嫌う(Nature abhors a vacuum.)と言った。国際政治では力の真空はバランス・オブ・パワーを突き崩し、不安定要因となりやすい。しかし、地政学的にはもうひとつ「自然は3者を嫌う(Nature abhors a threesome.)」という不安定要因があると私は思う。三角関係は国際秩序を不均衡にさせかねない。日米中関係についてもそれは例外ではない。
しかし、この3者関係は1980年代から20年近く、天安門事件の後の対中制裁の一時期を除き、基本的に安定していた。シンガポールの建国の父といわれたリー・クアンユーは日米中関係が「二等辺三角形」の状態にあるのが安定の秘訣であるとの洞察を披露したことがある。日米関係の辺が、米中、日中のそれぞれの辺より短い、すなわち強く、太く、他の2辺が同じ長さでそれより長く、すなわち弱く、細い関係がもっともよく安定する関係であり、黄金律であるというのである。実際、この「二等辺三角形」が維持できた時代は日米中安定の黄金時代だったといえる。今世紀に入ってからそれは急速に変形していった。いまでは、米中貿易額(2019年実績5252億ドル)が日米(同2150億ドル)と日中(同2779億ドル)いずれの貿易額をも上回る。しかも、日中関係が尖閣諸島をめぐって緊張し、日中の辺がひび割れを起こし、習近平・トランプ時代になって米中の辺が亀裂し始めた。
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