定年退職後も「現役気取りする」元部長のヤバさ 「独りよがりの正義を曲げない」男たちの迷走

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ところが、パーティー当日、思いもかけないことが起きた。事前の準備のために事務局のスタッフが集合する時間に、梶さんもやってくるではないか。皆、目を丸くしていると、梶さんは去年と変わらず部長気分で指示を出し始めたのだ。

「梶さん、すみませんが、今年はやり方を少し変えています」と新部長が言っても、いちいち口を出して、自分が部長だった頃のやり方に戻そうとする。もともと迫力あるキャラクターのため、新部長はもう上司でも何でもないはずの梶さんを邪険にはできない様子だ。

坂本さんはこのままではいけないと、梶さんをたしなめるように言った。

梶さん激怒させた「坂本さんの一言」

「今回は新しい部長さんと事前に打ち合わせをして、その取り決めの中でやっていますから」

その一言で、火がついてしまった。

「なんで、いままでのとおりにやらないんだ!」と激昂して、坂本さんと新部長に詰め寄ってきたのだ。

「おまえたちではダメだ。総支配人を呼べ!」

総支配人は急に呼ばれて困惑したが、現場の収拾がつかなくなっているという説明を受けて、顔を出した。

「こんなやり方ではダメだ。前回のやり方に戻すべきなんだ!」

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梶さんは、総支配人に訴える。

しかし、総支配人はパーティーがあると必ず主催者や主賓に挨拶するために顔を出すようにはしているものの、細かい内容まで把握しているわけではない。

後から聞けば、「『言っている内容がわからないからどう返事すればいいかわからなかった』というのが本音だったそうなんですが」、総支配人は何らかの答えを出さなければならないため、梶さんの勢いについつい押されて、「まあまあ、今回は例年どおりでいいんじゃないですか」と答えてしまった。

「これで、お墨付きをもらえたということで、『ほら見ろ、オレの言うことを聞け』ということになってしまったのです」

もちろん、最後の食べ残しを持ち帰ることも例年どおりになってしまったのである。

結局、坂本さんが転勤になった後も是正できないまま、梶さんが協会を辞めるまでの数年間、パーティーは梶さんに牛耳られていたそうだ。

「その後は、会社とは関係のない団体に移ったという噂を聞きました。そこではウチのホテルでは規模が合わなかったため、別のホテルを利用されているらしいのですが、たぶんいまでも、あんな調子なのではないでしょうか。あの性格は治らないと思います」

完全に仕事を辞めたあかつきには、ますます迷惑老人になりそうだ。

林 美保子 フリーライター

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はやし みほこ / Mihoko Hayashi

1955年北海道出身、青山学院大学法学部卒。会社員、編集プロダクション勤務などを経て、フリーライターに。経営者や著名人インタビュー、エンタメ系など幅広い分野の記事を担当する。2004年、より社会的な分野にシフトするために一旦仕事を整理。ボランティア活動を始め、その間、精神保健ボランティアグループ代表も務める。2012年、フリーライターに復帰。以後、経営者インタビューや、高齢者関連など社会問題をテーマにした取材活動に取り組んでいる。近著に、『ルポ 難民化する老人たち』(イースト・プレス)がある。

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