岐阜県で英語を教えてわかったこと
安河内:ぜひ、スピーキングテストを一緒にプロモートしていきましょう。でもTOEICスピーキングテストの問題点は、一般の日本人にとっては、少々難しすぎる、というところなのです。CEFR(セファール/Common European Framework of Reference for Languageの略称。語学のコミュニケーションの能力別レベルを示す国際標準規格)でA2ぐらいのレベルのものが必要なのです。
ソレイシィ先生もホームページだったかな、日本には新しいスピーキングテストが必要だということを書かれていたと思うのですが?
ソレイシィ:そのとおりです。日本に最初に来たときからずっと思っていました。日本へはJETプログラム(The Japan Exchange and Teaching Program/語学指導等を行う外国青年招致事業)でやってきて、英語ネイティブとして小、中、高で発音の模範となるためのお手伝いをしました。
岐阜県に派遣されて、ある程度、生徒さんたちの英語力の進歩に貢献できましたが、やはり制限されたものでした。なぜかというと、定期テストの時期になると日本人の英語の先生から「スティーブさん、ちょっとここでお休みになってください。あの、試験の準備期間に入りますので」となるのです。英語を使ってコミュニケーションをとることと学校の試験を解くことは、まったく別物なんですね。
でもその頃、ある意味、私を20年以上も日本にとどまらせることになった、貴重な経験もできました。岐阜県にいたとき、たくさんの人から「日本人はシャイで口下手だから英語が話せない」という話を聞かされました。私も最初は同感でした。
そんなとき、突然、私は岐阜県飛騨の白川村にある、1学年に先生が1人、生徒が20人弱しかいないような小さな学校へ行ったのです。雪が多く合掌造りの家が有名な村ですよね。1人しかいない英語の先生は、好きなように、自由に英語を教えていました。英語を使う楽しさを体感しながら、知識を吸収していく生徒たちの姿を見て、「何だ、できるじゃない」と思ったのです。
その経験にインスピレーションを得て、「普通の日本人が英語を使えるようになるシステムはないか?」と考え続けてきたのです。「このメソッドはどうか、あのメソッドはどうか」と、自分の中でベストと思えるものをいろいろ作ってみました。
でも、まだ私としても歯がゆいところがあります。今はまだ、日本の皆さんは、試験でスピーキングやライティングを必須にしてまで本当に英語が使えるようになりたいと考えているか疑問だからです。現時点では、これから変わるというbeginningの位置にいるように感じます。
遅かれ早かれ、変化は訪れると思いますが、ただ、劇的な変化はまだ起きていないということを理解している人が、とても少ない気がしますね。よく耳にするのは、「日本の英語教育も以前とは変わった。昔はこういうのはなかったし」と現状を肯定する声なのです。「小学校で英語の授業が始まった 」「ネイティブの先生が訪問する」「学校に設置されたパソコンで英語に触れられる」といったことで、「ああ、すごく変わった」ととらえられがちなのです。
でも実際は、根っこの部分はまだ、以前とほぼ一緒なんですよね。私は批判しているわけではないのです。むしろ「本当に変わったら何が起こるのか」というのを日本の皆さんにお見せしたい気持ちでいっぱいなのです。
スピーキング、ライティングどちらのテストでもいいのですが、productiveな方向性のテストを開始する。そうすることで、誰もが英語を使える日がやってくる。日本人にとってまったく新しい時代ですよね。「日本人の英語」が恥ずかしいものではなく、誇るべき、日本のオリジナルなものになるのです。
日本語特有の「よろしくお願いします」「無理しないで」というようなフレーズが英語で表現できる「professional Japanese English」というものが生まれる。日本人に特化したビジネス英語のことですね。日本人にピッタリな英単語や英語の言い回しが出てくるでしょう。スピーキングテストが普及すれば、こうした動きが急速に加速していくでしょう。それがこれからの日本に起こる変革だと私は考えています。
具体的にどうその変革を起こしていくかは、本当にトリッキーで難しい。安河内さんは大学入試がキーとおっしゃっていて、それもいいとは思うのですが、私は企業や社会からドミノ式に変革を起こすことがいちばんのキーじゃないかと感じています。
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