このイメージや品質のとらえ方やブランドに対する考え方は、特にファッションやブランドビジネスにとっては核となる部分です。その核となる部分が、国や地域の文化や歴史的背景、消費社会の構造によって大きく異なるのです。
実際、ここ1~2年でようやく台湾でも日本の大手アパレルセレクトショップが展開をスタートさせています。そして、ファッション関連の企業の多くが販売代理店を使って海外展開をしている中で、子会社を設立して本格的に事業展開をする会社も現れ始めました。
今年、日本の大手セレクトショップであるアーバンリサーチも、現地に初の海外販売子会社を設立しました。アーバンリサーチの台湾現地法人総経理である菱川直哉氏に話を聞いてみると、
「台湾ではインターネットでの購買文化が強い。実際に店舗販売とEC販売は50対50になるのではないかと考えています。O2O(On line to Off line)で新しい小売業の形を作るのが理想です」と、日本での展開の仕方とは異なるアプローチが必要であると答えています。
「郷に入ったら郷に従え」を通して、自分たちを知る
中国・上海で日本企業の販売進出の話を聞いて回った際には、大半がうまくいっていないという話を聞きました。いくつか理由はあったのですが、多く聞かれたのが、「現地のエージェントやオフィスの権限が小さく、日本で稟議などに回すので、意思決定に時間がかかりすぎる」「中国は早いスピードで成長しているので、時間がかかることを嫌い、チャンスが回ってこなくなる」という話。商品の持つ文化的背景や価値観だけでなく、組織構造からしても、日本の考え方とは合わない国も多くある可能性を示唆しています。
ベースのライフスタイルを一変してしまうようなテクノロジーや概念を持っている企業、たとえばiPhoneのようなものであればいざ知らず、やはり地道にお客様の文化的背景を理解して、それに基づいてPDCAを回していくことが、最も海外事業の成功に近いのではないかと思っています。
どうしても、私たちの場合、「日本は技術的に最も進んでいる」とか「サービス業のレベルは世界でいちばん高い」と、繰り返し聞かされてきた自負があります。しかし、これが海外で求められている商品価値なのだろうかというと、違う可能性がかなり高いというところから、スタートすべきなのかもしれません。
ミラノ在住のビジネスコンセプターで、デザインを中心にマーケティングや文化論を展開している安西洋之さんも、「異文化の人々に製品やサービスを受け入れてもらうには、ローカリゼーション(現地化)が必要になる。……地域や文化が違うとロジックが変わってくる。ユーザーの思考プロセスも異なってくる。その点への対応は意外と見落とされている」(『「マルちゃん」はなぜメキシコの国民食になったのか?』より)と語っています。
ほかの国々を見て少しずつわかってきたことは、日本の消費社会や組織構造はとても特殊であるということです。日本のやり方、日本の商品をどう届けるか、というところから入るのではなく、まずは現地の消費文化や商習慣を知り、日本との違いを理解するところから始めるべきでしょう。
そして次のステップとして、現地でのPDCAのスピードを上げ、学習し修正するスピードを上げることが必要であると考えています。現地で販売エージェントなどと組み、進めていくという方法が最初のアプローチとして多くありますが、現地子会社という選択肢のほうが、学習ということを考えるとより早いかもしれません。現地のマーケットを知るためには、何よりも現地のお客様の声を聞くことがいちばんの近道だからです。
モノを売る、買うという行為そのものが、文化的背景や地理的環境、長年培かわれてきたライフスタイルなどが大きく影響しています。「モノの買い方、売り方」から自分たちのバックグラウンドを見つめることはあまり意識しないと思いますが、海外進出が一般的に考えられるようになってきた今、もう一度「モノの買い方、売り方」から自己と他者を考える、よい機会なのではないでしょうか?
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