「日本がダメだから海外」では失敗する 世界の中で特殊な日本の消費社会と組織構造

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「日本がダメだから海外に行く」はいちばん危険

「日本はすでにモノにあふれているから、海外に行けば少なからず売れるのではないか」

そんな思いを持たれている中小企業は、少なくないと思います。私自身、実際に海外事業展開をリアルに考えるまで、アジアマーケットは成長しているし、チャンスはあるのでは、くらいにしか考えていませんでした。しかし、いろいろと調べていくうちに、そのような軽い思いだけでは、絶対に海外進出は成功できないと思うようになりました。むしろ、日本でビジネスを成功させることが最も簡単である、という結論に行き着いたくらいです。

これにはまず、自分たちが日本人であり、日本の消費社会で育ってきたことがあります。当たり前ですが、自分の常識は世界の常識ではなく、日本の消費社会の常識であることを認める必要があります。そして、その消費社会における自分の常識は、数十年にわたって消費者をやってきた中で醸成されてきたものです。その常識のズレを意識しながら展開しないと、私たちから見たら常識的に正しいことをしていても、海外進出先から見ると非常識なことをやりかねないのです。

たとえば、日本を代表する食文化である、すしをみてみましょう。

日本でそこかしこにあふれている回転ずしも、世界展開を最も積極的にやっているチェーンは、イギリスにある回転ずしチェーンです。そして、そこでは日本のすしとは似ても似つかないモノが回っています。

さらに中東などは魚を生食しない文化なので、揚げ物を入れた巻物が中心で、ほとんど生の魚は回っていません。私たちからすると、こんな非常識に見えることも、現地では当然のごとくの常識で、これが現地では「常識的な」すしとして広まっていきます。

一般的に、海外進出を考える際に最初に設定するゴールは、日本と同じ基準での製品品質、流通品質、サービス品質などの品質を提供できるかということになります。しかし、そもそもそのゴールの先にある常識がズレていたらどうでしょうか? 日本では当たり前のすしを売ろうと海外に展開すること自体が、常識とズレているのです。

また、市場へのアプローチに対する感覚のズレも、あると思っています。世界を見たときに、日本のように1億2000万人の人口が限られた狭い土地にいるという地域は、非常に限られています。そして、その1億2000万人が似たような教育や宗教、所得バックグランドを持っているという国も非常にまれです。

たとえば5万円のスマートフォン。日本ではこのスマートフォンについて、ほぼすべての人が使いこなすだけの教育水準があり、バイトなどをしておカネを貯めることで、大学生でも購入できるという所得プラットフォームがあります。そのため、広告効果がとても出やすいのです。不特定多数に向かって商品のプロモーションを行っても、ターゲットに届く可能性が極めて高い。

しかし、たとえば、ほかのアジアの国に出てみたときに、同じように広告を打っても、同じように広告効果が出るでしょうか? 商品の価格帯によるかもしれませんが、基本的には日本の特徴である洗練された商品だったり、高価なサービスだったりということを考えると、限られた層にしか届かない可能性は高いと思われます。

また、日本はインターネットにより分散化したとはいえ、まだまだマスメディアの力が強く残っています。海外の多くの国ではTVや雑誌などのマスメディア自体が細分化されています。ツールという点でも、日本はとても特徴的な国であると言えるのです。

すぐ隣の台湾ですら難しい……

私たちも台湾に進出した際、このマーケットに対する認識のズレという壁にすぐにぶち当たりました。台湾はとても親日で、消費財の世界ではとても進出がしやすい国だと思います。しかしながら、そんなお隣の国ですら、日本での販売方法と大きく異なることがたくさんあるのです。

たとえば、台湾は日本のお客様よりも品質に厳しい、と聞くとみなさんは驚くかもしれません。日本のお客様が世界でいちばん品質に厳しいとずっと聞かされてきた私たちにとっては、これはとても驚きでした。「少しでも店頭に置いてあったのだったら、在庫のモノに交換してほしい」「このレザーのシワが気になるから、ほかの在庫も全部見せてほしい」などの声が多数店舗で聞かれるのです。

確かに、マザーハウスは台湾でも日本と同じ値段で展開しているため、現地の感覚で言うと、日本の2倍以上の価格に感じます。日本で言うと、5万円以上のバッグを買う感覚になります。これが商品の品質に対する目線を厳しくしているのでしょう。いずれにしても、日本からモノを出していくと、値段はどうしても高くなるのは明確です。そうすると、それに見合うだけ品質に対する基準も上がると考えたほうがよいと思います。

マザーハウスの起業ストーリーに対する共感の仕方も、日本と台湾では大きく異なりました。台湾では、女性も含めて、起業自体が決して珍しいことではありません。そのため、講演を行っても日本では、「どうしたらやりたいことが見つかりますか?」などの質問が多い一方で、台湾では、「どうしたら起業資金を集められるか?」「どういうパートナーと組んで起業するのがいいのか?」など、より具体的な方法に対して興味関心が強くあります。この違いは、私たちの商品やストーリー価値の伝え方、そしてブランディングにも大きく影響する話です。

マザーハウスは日本も台湾もお客様と一緒にイベントを行う
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