「幼児でも数を理解できる」人間の脳が持つ能力 成長するにつれて小さな差を認識できるように

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ほとんどの人はいちばん右の円を選ぶのではないだろうか(自分もそうだ)。ほかの円に比べてずいぶんとすき間が少ない、ということは点が多いと思うわけだ。ところが実際に数えてみるとわかるが、どの円でも黒い点の数は同じである。

数が「正しく」並んでいれば大小の判断がしやすい

人間の脳が犯す間違いはほかにもある。例えば2つの数を比較するときには、その位置関係、並び方が重要になる。数が「正しく」並んでいれば、その大小の判断がしやすい。小さい数は左側に、大きい数なら右側にある「はず」――脳はそう考える。だから、「9は5より大きいか」という問題で、9が5の右側に並んでいれば、早く答えが出せる。

要するに、脳は見たものに数をリンクさせている。脳が数量を処理するうえで、位置が持つ意味は大きい。これは9や15のようにはっきりした数(字)にかぎらず、点であっても同じだ。しかも、これは人間だけの能力ではない。「大きな数は右側」と考える傾向は、ヒヨコにも見られる。

『公式より大切な「数学」の話をしよう」(NHK出版)。書影をクリックするとアマゾンのサイトにジャンプします

人間の脳には、図形の処理を専門に行う領域がある。目的地への道を見つけられるのはこのおかげだ。ヒヨコを含め、ほかの動物の脳にもこのような領域があり、簡単な図形を認識できる。これは例えば、隠したエサを探すときに役立つ。

なお、動物のナビゲーションの方法はこれだけではない。渡り鳥は正しい方角に飛ぶために太陽や星の配置を利用するし、昆虫はにおいの跡をたどって巣に戻る。このようなときに図形の認識は必ずしも必要ではないが、認識できると便利な場合もある。目指す巣が円の真ん中にあるのか、あるいは長方形の角にあるのかが把握できるからだ。

幼児やヒヨコは、長方形が何かを理解しているのだろうか。多くの実験の結果、幼児もヒヨコも角度や長さを把握するだけでなく、ものの形に関する能力があることが明らかになっている。

ステファン・ボイスマン 数学者

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Stefan Buijsman

1995年、オランダ、ライデン生まれ。15歳でライデン大学に入学し、天文学、コンピュータサイエンス、哲学を学ぶ。18歳で修士号を取得。その後、スウェーデン、ストックホルム大学で通常4年の課程を18か月で修了、20歳でストックホルム大学最年少博士号を取得。現在はストックホルムの研究機関で数学の哲学の特別研究員(PD)。2018年、数学がテーマの児童書(共著)を刊行。同年に刊行された本書『公式より大切な「数学」の話をしよう』は18か国で出版が決定したほか、オランダ文学基金による「2018年注目のノンフィクション10冊」にも選出された。2020年、AIをテーマにした新作を上梓。オランダ、デン・ハーグ在住。

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