キヤノン電子が描く「宇宙ビジネス」の未来 トップが語る「技術立国・日本」再興の要諦

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――自前のロケット開発は技術的にメドが立っているのでしょうか。

私の想定したようにメドは立っている。新型コロナの影響が実験などさまざまな部分に出ているのは事実だが、方向性に変化はない。

新たな技術開発はすぐにできるものではない。歯科用ミリングマシンの研究開発には15年かかった。キヤノンの主力製品となっている複写機やインクジェットの研究開発に私も携わったが、完成して世に出回るまで25~30年かかった。

今の日本の経営者は投資をすればすぐに成果が出ると思っている節がある。要は技術開発の経験がなく、忍耐力がない。新しいことをやろうとして、うまくいかないとすぐやめてしまう。

昔は出る杭は打たれて、また立ち上がるチャンスがあったが、今では出る杭がそのまま抜かれて捨てられてしまっている。すると新しいものが(世に)出ようがない。それでは今後やっていけない。

売上高1000億円目標に遅れも

――ロケット開発が軌道に乗るまでの見通しはどうでしょうか。

すでに人工衛星向けの部品を売っているが、2017年に打ち上げた人工衛星の1号機の運用が4年目に入れば対外的にも十分な実績になるので、部品を本格的に売り出せるようになる。実績をアピールできればコスト競争に巻き込まれることなく、適正な価格で売れる。人工衛星そのものも外部に販売できるようになるだろう。

新型コロナの影響も出ている。技術者の移動に制約があるほか、スペースポート紀伊の建設現場に作業員が集まることができなかった。海外製の資材も入荷が遅れ、もともと2030年に宇宙関連事業で売上高1000億円を目指していたが、目標達成が遅れる可能性もある。

プリンターやカメラの需要が落ち、キヤノン電子の業績にも影響が出てくることが想定される中、宇宙への投資を続けていくことになる。それでも宇宙産業が将来の有望市場であることに変わりはなく、投資は続けていく。それこそ一時的に資金使途を変えてでも、やり抜く意志に変わりはない。

宇宙産業への投資は道楽ではない。しっかり予算を立てて、きちんと管理した会社が投資可能な範囲内でやっている。私は「道楽ではなく、社長の趣味の世界でやっているので会社はつぶれない」と説明している。道楽は無尽蔵にお金を使い果たしていくが、趣味は自分たちのお金の範囲内でやっている。だから会社を潰したりしない。

宇宙事業の立ち上げ見通しがつけば、(社長職を)後継者に譲ろうと思っている。新型コロナが落ち着いたら、私もせめて老後くらいは旅行してのんびりしたい。

劉 彦甫 東洋経済 記者

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りゅう いぇんふ / Yenfu LIU

解説部記者。台湾・中台関係を中心に国際政治やマクロ経済が専門。台湾台北市生まれの客家系。長崎県立佐世保南高校、早稲田大学政治経済学部経済学科卒業。早稲田大学大学院政治学研究科修士課程修了、修士(ジャーナリズム)。日本の台湾認識・言説の研究者でもある。日本台湾教育支援研究者ネットワーク(SNET台湾)特別研究員。ピアノや旅行、アニメが好き。

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