キヤノン電子が描く「宇宙ビジネス」の未来 トップが語る「技術立国・日本」再興の要諦

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――イーロン・マスク氏の「スペースX」をはじめ、世界では民間企業による宇宙開発が進んでいます。

日本は取り残されている。日本は技術はあるが、自前の部品を生かして宇宙開発を行う決断が遅れてしまった。アメリカの宇宙ベンチャーが新型コロナの影響をあまり受けていないのは、国内でロケット開発に必要なものを調達できるからだ。日本でも国産技術や部品にこだわるベンチャーが出てきているが、宇宙関連の製品を輸入に頼っている面も多い。それに一石を投じたい。

さかまき・ひさし/1940年生まれ。1967年にキヤノン入社。取締役システム事業本部長や常務取締役生産本部長を経て、1999年にキヤノン電子社長(編集部撮影)

――日本の強みはどこにありますか。

民生部品の技術力の高さだ。宇宙で使用するものだからと部品を特注するケースもあるが、実は民生部品で十分なことが多い。例えば、キヤノン電子はプリンターなどの精密機械を動かすための駆動回路や部品を大量生産している。これらの部品には、例えば5年間の保証をつけており、中には1分間で数万回転の駆動を求められるものがある。

キヤノン電子が開発して打ち上げた超小型人工衛星は100%内製化を目指している。1号機の内製率は60~70%だったが、2号機以降はほぼ100%となっている。例えば、2017年に打ち上げた衛星の中で最初に壊れた部品は宇宙用に製造されたものだった。宇宙用に特注した数十万円するコネクターと、1個数十円の民生用のコネクターの衝撃実験をやったところ、特注品が壊れてしまったケースもあった。

厳しいロケット打ち上げ規制

――日本の宇宙産業発展のための課題は何でしょうか。

規制が厳しく、民間企業が発展していくための環境の整備がまだまだ必要だ。民間でもロケットを打ち上げ可能にするために法整備が必要だったが、約6年間陳情を続け、ようやく宇宙活動法と衛星リモートセンシング法が制定された。

2017年の人工衛星1号機はインド宇宙研究機構に打ち上げてもらった。日本で打ち上げるにはJAXAに提出する申請書類を用意するために半年近くが必要となる。インドで打ち上げる際も安全保障上の問題から部品を送るだけでも許可が必要になった。いずれも必要な手続きだと思うが、こういった点を改善することが日本の宇宙産業の発展に寄与するのではないか。

――この数年で政府やJAXAも民間企業を支援しようとさまざまな施策をとっています。

民間の宇宙産業を育てようという方針が出てきたが、もう少しスピード感がほしい。ロケットの開発のために必要な実験場や射場の多くは公的機関が保有し、民間企業は自由に使えない。

そこで、和歌山県串本町に「スペースポート紀伊」を建設しているが、着工に時間がかかった。低緯度ほどロケットの打ち上げ時に必要なエネルギーが少なく済む。串本町は好立地で満足しているが、2019年11月の起工式を迎えるまでに、法整備や土地の購入手続きなど、地元の協力も必要だったため想定以上の時間を必要とした。輸送用の大型トラックのための道路整備も必要で、これらの調整にもわれわれが予定していた以上の時間を必要とした。

今後は新型コロナの影響で政府としても宇宙産業に予算をかけることがますます難しくなるかもしれない。アメリカと月面探査などで共同活動をしているが、日本の宇宙産業として世界的な宇宙開発にどう貢献するかも課題になる。

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