街歩きから見えてきた「住宅業界」苦境の真因 消費者の選別化はより一層進む状況になる

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筆者もマンションに住んでいる子育て中の家族から、「(外出自粛中のとくに学校が休みだった期間は)子どもとの距離が近すぎて在宅ワークが難しかった」などという声を聞いており、だから上記のような指摘にもうなずける。

共同住宅に比べて、庭や広めのバルコニーがある戸建てだと、なおのことステイホームに対応しやすいだろうとも感じていた。ただ、「そんなに単純な話かな」と、疑問を感じる部分もあったのである。

マンションの新規発売件数は抑え気味の状況だ(写真:筆者撮影)

戸建てだからステイホーム、在宅ワークに対応しやすいというものではないし、加えてミニ戸建ての販売状況が鈍化しつつある状況を目の当たりにしたわけで、上記のようなイメージとは異なる見解を示したくなったのである。

マンションについては販売不振というよりは、供給量そのものが少ないのが影響している。不動産経済研究所によると、首都圏で2020年上半期(1~6月)に新規発売された戸数は7497戸(44.2%減)である。だから、マンションから戸建てにニーズが流れているというのは言いすぎだと考えている。

直近のGDPで住宅投資の落ち込みは少なかった

最後に、筆者としての現状や今後の住宅市場に関する見解をまとめると、正直なところ戸建て(注文・分譲)、マンションを含め、まだまだ不透明感が強く、「厳しい環境」としか言いようがない。

ただ、消費者の住宅取得に対するものの見方が、以前に比べ大変厳しくなっている(なるだろう)ということだけは間違いなく指摘できる。例えば、内閣府が8月17日に発表した2020年4~6月期の国内総生産(GDP、季節調整済み)の速報値がそれを裏付ける。

速報値では物価変動の影響を除いた実質で前年同期比7.8%減、年率換算では27.8%減になるとしている。これはリーマンショックを上回る戦後最大の下げ幅だというから、住宅市場が厳しい環境にある(なる)ということに異論はないと思う。

なお、このうち住宅投資は0.2%減で、その他(輸出18.5%減、個人消費8.2%減、設備投資1.5%減)に比べ下げ幅が低いが、これは着工の動きが遅れて反映されるためだ。今後発表される速報値では減少幅が拡大する可能性もある。

いずれにせよ、そうした中では消費者による選別の視線が激しくなるが、それは商品性だけでなく企業姿勢など細部に及ぶものと考えられる。逆に、念のためだが消費者目線で見れば、事業者の細部により注意を払わないと満足度の高い住宅の獲得は難しくなる。

経営環境が厳しい状況になると、欠陥の発生など質の低い住宅を供給する事業者が現れるなど、住宅市場の混乱が深まる可能性があるからである。とくに価格の安さばかりにとらわれることがないようにしたいものだ。

田中 直輝 住生活ジャーナリスト

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たなか なおき / Naoki Tanaka

早稲田大学教育学部を卒業後、海外17カ国を一人旅。その後、約10年間にわたって住宅業界専門紙・住宅産業新聞社で主に大手ハウスメーカーを担当し、取材活動を行う。現在は、「住生活ジャーナリスト」として戸建てをはじめ、不動産業界も含め広く住宅の世界を探求。

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