アリの思考 vs.キリギリスの思考 「問題解決」から「問題発見」に跳ぶための3つの視点

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「キリギリスの思考」に跳ぶための3つの視点

ここで2つの思考回路の根本的な相違点を3つ挙げる。これらのポイントが「アリとキリギリス」という名前で表現した理由そのものである。下の図を見てほしい。

「アリ型思考」と「キリギリス型思考」の3つの相違点をアリの世界とキリギリスの世界をイメージすることで表現している。

ひとつ目が「ストック」と「フロー」との違いである。ここでは主に知的資産、つまり過去の経験や知識を、蓄積したストックとして珍重するか、一度使ったら捨ててしまうというフローで考えるかの違いである。「知っているものからの発想」か「知らないものからの発想」かの違いとも言える。

かの有名なイソップの寓話を思い出してもらえれば、「貯蓄型」のアリがストック思考で「あればすぐに使ってしまう」キリギリスがフロー思考というイメージがおわかりだろう。

2番目は「閉じた系」か「開いた系」かの違いである。ここでの閉じた系で考えるというのは端的に言えば、物事に自らの常識や判断基準で「線を引いて」その内側と外側とを区別して考えるか、すべてのものをありのままに見るかの違いである。

自らの「巣」を持っているアリは、「組織の中と外」や「常識と非常識」とを明確に区別して発想するのに対して、「拠り所としての巣」を持たないキリギリスは、特に「線を引かず」にフラットに物事を観察するという違いがある。

そして3番目が「固定次元」で考えるか「可変次元」で考えるかという違いである。簡単に表現すると、基本的に前後左右という「2次元」の動きしかできないアリと、必要に応じて「跳ぶ」という「3次元」の動きもオプションとして持っているキリギリスとの違いである。

次元とは「問題の変数」のことだ。変数を固定して考えるのがアリで、変数そのものを変化させて考えるのがキリギリスである。

以上、3つの思考回路の相違点をまとめると、「問題解決重視」のアリは、「ストック重視」かつ「閉じた系」で「次元を固定して」考える。一方、キリギリスは「フロー重視」で「開いた系」で「次元を自在に増減させる」。

次回以降でこれら3つの思考回路、思考の視点の相違点と行動パターンの相違についてひとつずつ具体的に解説していきたい。

細谷 功 ビジネスコンサルタント、著述家

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ほそや いさお / Isao Hosoya

1964年、神奈川県生まれ。東京大学工学部卒業後、東芝を経てアーンスト&ヤング・コンサルティング(クニエの前身)に入社。2009年よりクニエのマネージングディレクター、2012年より同社コンサルティングフェローとなる。問題解決や思考に関する講演やセミナーを国内外の大学や企業などに対して実施している。

著書に『地頭力を鍛える 問題解決に活かす「フェルミ推定」』、『アナロジー思考 「構造」と「関係性」を見抜く』『問題解決のジレンマ イグノランスマネジメント:無知の力』(以上、東洋経済新報社)などがある。

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