ノーベル経済学賞候補が、いま考えていること  世界的第一人者ブランシャールのマクロ経済学

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これらの変更によって、より直感的かつシンプルな説明となり、本格的なマクロ経済学の教科書のなかでも最もわかりやすいものの1つになっている。実際、このような直感的な考え方をいまや多くの政策実務家も(意識的あるいは無意識的に)採用しており、マクロ経済的なディスカッションにおいてコンセンサスを形成するのに必要十分なものだろうと思う。

とくに、政策金利の決定と作用、ゼロ金利制約、流動性の罠、デフレ、インフレターゲティング、量的緩和(QE)といった今日的なイシューに関して、基本的な議論を理解するのに最適かつ十分だろう。

たとえば日本の経済でいえば、アベノミクスの狙いや効果に関しての評価を自分自身で総括する力が身につけられる。

また、本文を実際に読んでみるとわかるが、ブランシャールがそこにいて語りかけているかのようなのだ。それが非常に魅力的でまた親しみやすさにもつながっており、独学者にもとても向いている教科書だろう。このあたりはブランシャールの人柄がそのまま伝わってくるところである。

MITの良心

ブランシャールはただ温情的な政策を主張するタイプの経済学者ではない。平時の経済政策に関しては、非常に“渋ちん”な提言も数多くしている。健康なときにはダイエットにきちんと勤しむべきである、そんな厳格さをもっている。

しかし、ひとたび危機に見舞われた場合は、体力の回復を何より優先する、そんな風情がある。これは両親の影響なのかもしれない。

このことをもってブランシャールは「言うことが変わる」と言われることもあるが、経済的医者としてブレがないことは、経済が置かれた前提条件の違いとして理解できるだろう。

柔軟さとブレなさ、そのブランシャールの姿勢は、MITの伝統的な特質でもあるという。MITでは本質的な経済原理のモデル化とともに、それが現実と一致するかをとても重視する。もし美しいモデルがあっても、それが現実にそぐわなければ、強引に適用するのではなく、再考されなければならない。

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