ノーベル経済学賞候補が、いま考えていること  世界的第一人者ブランシャールのマクロ経済学

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リーマンショック、欧州金融危機から世界経済を救った、紛れもない中心人物がブランシャールなのである。そして2015年、彼はIMFでの務めを果たし、MITに復帰した。

教育者的良心はマクロ経済学の教科書に

IMFでの激闘のさなか、ブランシャールは経済危機前に書いたマクロ経済学(原書版第5版)の教科書の改訂を進めていた。

彼の教科書は、基本に忠実で、極力シンプルなモデルで説明が行われる。ほぼひとまとまりのモデルから出発し、徐々にそれをじっくり発展させていき、メカニズムの動きと適用範囲、効力の可能性と限界を明確に自覚できるようになっていて、論理的に端正(エレガント)な趣がある(Cloud Y, “DSGE model and the State of Macroeconomics Q&A with Olivier Blanchard,” Econreporter, November 20, 2016を参照)。

そして、基本構成がシンプルであるがゆえに、運用が柔軟にできる。とくに教科書であれば少なからずある結論の押し付け的なものは極力排されていて、簡単な演習と今日的なトピックスを充実させ、学ぶ者の自律的な立体的理解を促すような工夫がある。原則はシンプル、応用が柔軟に利く、ということで、初級・中級者向けのテキストとして専門家からよく推奨される。

このことは、教育者としての氏の良心性をも表すように思う。

そしてIMF時代を通じて、その改訂(原書版第7版、2015年刊行)は行われており、氏の骨身に染みた経験がふんだんに追記されている。この翻訳が冒頭で紹介した『ブランシャール マクロ経済学(第2版)』である。

やや技術的になるが改訂のポイントを少し解説すると、金利、GDP、物価の動向を包括的に理解するメカニズムに関して、従来のIS-LMモデルを踏まえたAD-ASモデルでの説明から、マクロ経済現象をよりシンプルに、かつ正確に描写できるよう、IS-LM-PC(PC=フィリップス曲線)モデルを活用する工夫が図られている。

さらに、実際の経済の動きにより即した説明がなされている。例えば、LM曲線に基づく金利の決定という伝統的な方法に関しては、中央銀行の実際の行動を踏まえて政策金利が先に決まる(その金利水準を満たすように貨幣供給量が調整される)ということを考慮し、LM曲線はある金利水準で水平となるように描かれている。

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