ノーベル経済学賞候補が、いま考えていること  世界的第一人者ブランシャールのマクロ経済学

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サミュエルソンに始まり、ロバート・ソロー、スタンレー・フィッシャー、フランコ・モディリアーニ、チャールズ・キンドルバーガーらを擁したMITは、そのような伝統のなかで、世界トップレベルの経済学者、政策立案者を輩出してきた。

アカロフ、スティグリッツ、ポール・クルーグマン、ピーター・ダイアモンド、ジャン・ティロールらのノーベル賞受賞者、元FRB議長のベン・バーナンキ、前ECB総裁のマリオ・ドラギらは皆MITの伝統を受け継ぐ者たちだが、ブランシャールは今やその中心にいる。

マクロ経済学再考のとき

そんなブランシャールは、2019年早々のAEA会長講演でまたしても専門家たちを驚かせている。

「マクロ経済学は数十年ぶりに生まれ変わる必要がある」

そんな内容のスピーチだったが、奇をてらうところのないブランシャールの率直な言だけに、どよめきが起きたという。

最近のブランシャールは、長引く経済の長期停滞が先進国の危機となっているという認識を強めており、これまでの枠組による施策の限界を打ち破るべき必要性を強く意識しているようである。これは氏の新しい財政政策論につながっていく。

「私たちはマクロ経済政策、とくに財政政策を大きく再考すべきであるとの信念を強めている」(“Evolution or revolution: An afterword” VOXEU, 13 May 2019)

このような認識の中、ブランシャールは昨年、消費税増税に前後して日本への提言も行っている。

「現在の日本の状況では、財政赤字と公的債務残高の圧縮よりも成長の維持を重視すべきだ。財政出動には、短期的には需要を喚起し、長期的には供給を強化するという少なからぬメリットがある。しかも公的債務の財政・経済コストは限定的である」(『日本経済新聞』2019年10月7日付)

そして最近は、コロナウイルスに苦しむ世界経済に際しても、リポートやTwitterで各国の中央銀行の金融緩和を評価しつつ、さらに財政政策の重要性をよく発信している。

危機下こそが経済政策の出番であり、経済学はまた世界をよりよく変える可能性を深く考えるときにきているのではないか。

ブランシャールは今もまた、経済学を志した時の初心を思い出しているかもしれない。

【2020年9月9日15時06分追記】初出時、参照元の文献を記載できていない箇所がありましたので追記いたしました。

佐々木 一寿 経済評論家、作家

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ささき かずとし / Kazutoshi Sasaki

横浜国立大学経済学部国際経済学科卒業、大手メディアグループの経済系・報道系記者・編集者、ビジネス・スクール研究員/出版局編集委員、民間企業研究所にて経済学、経営学、社会学、心理学、行動科学の研究に従事。著書に『経済学的にありえない。』(日本経済新聞出版社刊)などがある。

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