「PCR検査・隔離」の膨張が引き起こす現実の問題 感染症と検査の現場から西村秀一医師が訴える

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――帝王切開そのものがリスクですよね。

帝王切開は妊婦さんにとって大きな不安でありリスクだ。もしかしたら本当は陽性ではないかもしれないと妊婦さんに説明して、それで帝王切開の同意がとれるのか。医療従事者にとっての安心は患者の安心ではない。薄っぺらな「安心」を語ってはいけない。

そもそも、感染が地域に大きく広がっていなければ、偽陽性の可能性が高い。逆に広がっていたら、先の小学生の例のような人にうつすリスクのない陽性が頻繁に出てくる。また一方で、検査には偽陰性のリスクもあるので、検査するしないにかかわらず、感染防止に配慮することはどの病院でも必要だ。

心ある医師ならば、向き合っているそれぞれの患者さんの人生のことも考えるものだ。ところが、PCR、PCRと言い続け、「陽性者は隔離」などという人たちは人を人とも見ていない。1つ検査するだけでオセロの駒のように白と黒に分けられると考えている。また、PCRで隔離しろと叫ぶ一般の人たちも、あたかも自分は安全地帯にいるかのように、ウイルスがくっついた人を塀の内側へ入れろと要求している。そういうところから、差別や偏見が広がっていく。

検体中のウイルスが減っていくという難しさ

――偽陽性と偽陰性の問題が広く知られるようになってきたため、検査・隔離を主張してきた人は「何度も検査すればいい」と言っています。

それこそ、検査の現場、医療の現場の逼迫につながる。現場のことを何もわかっていない。先ほどの小学生の例のような場合は、確認のために何度もやるべきだが、マス・スクリーニング目的であれば、同意できない。

検査はタダではない。1回1万数千円で自己負担するには高い。税金でやるならそれは子や孫の世代への付け回しだ。百歩譲って、もし無症状者を検査するとすれば、重症者や死者を出すリスクの高い病院や高齢者施設の担当職員に絞ってやるくらいだ。検査資源は効率的・効果的に使うべきだ。

また、最近の論文で、検体の取り方だけでなく保存の仕方、保存期間によって検体中のウイルスの遺伝子量が減ってくると報告された。ウイルスが死んでいても遺伝子は残ると考えられていたのが、人間の検体の中にはRNAを分解する酵素もあり、それが遺伝子を壊していったりする。保存状態によってはそれが急激に進む。しかも驚いたことにマイナス20℃で凍結保存しても起きるそうだ。先の小学生の例では採取してすぐに検査したことを確認しているが、数日置かれると検体として意味を失うというのだ。

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