「PCR検査・隔離」の膨張が引き起こす現実の問題 感染症と検査の現場から西村秀一医師が訴える

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――最近、無症状で宿泊施設に収容された人が、部屋が狭い、食事の量が少ないなどというので逃げ出す事態が散発しています。仕事や買い物に出たりする人もいて、自治体は問題視しています。しかし、「隔離」の強制は人権侵害です。無症状の人の隔離に妥当性はあるのでしょうか。

個々の人の陽性の「質」を見る必要がある。詳しく調べて、必要であれば再検査も行い、周囲に感染を広げるリスクがないと判断したら、念のための自宅待機だけでよいことにしたらいい。検討の結果、ウイルス量が多い人に対しては、症状が急変するかもしれず、その場合にすぐに対応できるよう宿泊施設にとどまっていたほうがよいと説明し、納得してもらえばいいのではないか。

そもそも感染の観点を離れて、それが強制収容なのか、本人の希望なのかということは大事だ。問題ない人が意に反して収容されるようなことがあってはならない。

検査の範囲を無理やり広げても、質の担保のない信頼できない検査だと思われ、しかも結果次第で長期隔離ということになれば、検査を忌避する人たちも出てくるのではないか。

――武漢のように陽性者を集中的に収容する建物をつくれという提言をする学者もいて、そのような施設も準備されています。しかし、野戦病院のようになると、かえってウイルスに感染する機会を増やして感染爆発を引き起こすおそれはないでしょうか。

収容の様式にもよる。収容者同士が集まったりしないようにされているなら、そこで感染が広がることはないが、そうでない場合は真の感染者と偽陽性感染者が同居することになる。もし真の感染者が効率よくウイルスを出していれば、収容者の中から発症者が出てくる。もし本当にやるのであれば、そうしたことを早い段階で見逃さないようにしなければならない。

ゼロリスクは机上の空論、うまく付き合うしかない

――「検査して隔離」は、致死率が高く感染が広がりにくい病気では有効と思われますが、新型コロナのように感染が広がりやすいけれど重症化リスクや死亡リスクがあまり高くないという感染症には適さないのでは?

インフルエンザのようにどこで感染したのかがわかりにくい感染症は、無症候性の感染者の隔離を行うことや、それによって流行を止めようとすることは机上の空論で、無駄かつ無理だ。今度の新型コロナもたぶん同類だ。上手に付き合っていくことを考えるしかない。

今の「恐れすぎ」は公衆衛生として必要な範囲を超えている。「恐れすぎ」が蔓延して、ゼロリスクを求める動きにつながっている。「検査して隔離」は「恐れすぎ」による思慮を欠いた発想だ。完全にゼロリスクにすることなどできない。

ときに誤解も拡散されるオンラインニュースの時代。解説部コラムニスト7人がそれぞれの専門性を武器に事実やデータを掘り下げてわかりやすく解説する、東洋経済のブリーフィングサイト。画像をクリックするとサイトにジャンプします

ゼロリスクを追求するあまり、学校では入学式や卒業式もまともに行われず、再開しても、運動会も学芸会もない。子どもたちの思い出はどうなるのか。歌のない音楽の授業や、実験のない理科の授業、昼食の間はおしゃべり禁止だ。会話を楽しみながらの昼食も食育だろう。ボールや机のアルコール消毒など、先生たちも疲弊している。

こんなことをいつまで続けるのか。さすがにまずいと思ったのか、文部科学省も机の消毒については8月6日に見直し方針を現場に伝えたようだが、「何か」に対する忖度がらみの現場のやりすぎはまだまだある。今後、そういった呪縛のひとつひとつを解いていく対応が望まれる。

大崎 明子 東洋経済 編集委員

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おおさき あきこ / Akiko Osaki

早稲田大学政治経済学部卒。1985年東洋経済新報社入社。機械、精密機器業界などを担当後、関西支社でバブルのピークと崩壊に遇い不動産市場を取材。その後、『週刊東洋経済』編集部、『オール投資』編集部、証券・保険・銀行業界の担当を経て『金融ビジネス』編集長。一橋大学大学院国際企業戦略研究科(経営法務)修士。現在は、金融市場全般と地方銀行をウォッチする一方、マクロ経済を担当。

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