早稲田政経卒「発達障害」26歳男が訴える不条理 「高学歴なのになぜバカなんだ?」と罵倒される

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発達障害と診断されてからの1年間、ソウスケさんはひきこもりに近い状態に陥った。ちょうど同じころ社会では、背景にひきこもりの問題があったのではと指摘される事件が相次いだ。5月には川崎市内で50代の男性が小学生らを殺傷、同6月には東京・練馬区で元農水事務次官が息子を刺殺、同7月には京都アニメーション放火事件が起きた。

「いつか自分も犯罪者になるんじゃないか。父と殺し殺される関係になるんじゃないか。これはまずい。絶対にこうなってはいけない」

ニュースを見ながら恐怖に震えた。川崎の事件をめぐっては、テレビやネットを中心に「(加害者は)1人で死ねばいいのに」といった主張も相次いだ。こうした意見は当然、ソウスケさんの耳にも入る。社会に迷惑をかける前にと、ネットで自殺方法を調べたりしたものの、実行することはできなかった。代わりに拒食状態になり、夕方になると気持ちが不安定になり涙が出たという。

とくに不眠は苦しかった。睡眠導入剤を服用しても数時間で目が覚める。その後はこれまでに怒鳴られたり、ののしられたりした経験が何度も頭の中でよみがえった。「暗闇の中で歯を食いしばって耐え、気がつくと窓の外が明るくなっている──。朝になると体力を使い果たした状態でした。毎日夜になるのが怖かったです」。

昨年の1年間で体重が一気に20キロ落ちた。

話しているだけではわからない障害の特性

ソウスケさんとは都内の喫茶店で会った。本人確認のために見せてもらった障害者手帳の顔写真に比べ、目の前にいるソウスケさんはたしかに別人のように痩せていた。一方でソウスケさんの受け答えはつねに的確で、私が取材で出会った発達障害の人たちと比べて障害の特性がほとんどわからなかった。そう伝えると、ソウスケさんはこう答えた。

「検査によると『言語理解』の能力は高いみたいです。多動性もありませんから、普通に話しているだけではわからないかもしれませんね。一方で『知覚統合』は低くて、(明らかな知的障害とまではいえない)知的境界域の水準です。視覚からの情報をうまく処理できない。自分の場合はケアレスミスが多く、地図や図表、グラフを読むのが苦手です。

例えば、バス停では目的地に行くバスが来ているのにぼんやりして乗り損ねたり、探している携帯が目の前にあるのに探し続けたりとか。場の空気が読めないので親密な人間関係を築くのも苦手です。私の障害の特性は一緒に働いてみるとすぐわかると思います」

振り返ってみると、明らかな違和感を覚えたのは高校に入学したころだったという。クラスメートと好きな小説や漫画の話をしても、おもしろいと思うポイントがずれる。「お前、おかしいんじゃない?」などと言われ、クラスでも孤立しがちだった。

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