コロナ時代は「SDGsの落とし穴」に気をつけろ ベニオフCEOの志と日本企業の精神は同じだ

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この7人は2020年の50周年のイベントでも集まり、資本主義の先は「タレンティズム」ではないかと論じあったという。日本語でいえば、30年以上前に経営学者の伊丹敬之氏が唱えた「人本主義」だ。カネではなく、ヒトこそが、経済と経営の基軸になるのではないかという主張である。

ただし、ヒトには多様な側面があることも見落としてはならない。20世紀後半の世界経済の成長の原動力となったのは、ヒトの欲望である。そして、その欲望経済が、資本主義の暴走をもたらしたのである。

そこで私は、ヒトの中にあるより崇高な思いに注目したい。それを「志(パーパス)」と呼ぶことにしよう。自分の欲望だけを追求するのではなく、社会や環境との共存をめざすバランスの取れた精神である。資本主義の先には、「志本主義(Purposism)」の時代が到来するはずだ。

SDGsの落とし穴

2015年以降、世界中で取り組まれているSDGs(持続可能な開発目標)は、まさにそのような大きな志の発露といえるだろう。しかし、現行のSDGsには3つの限界がある。

第1の落とし穴は、視野狭窄に陥りやすい点である。17の目標、そしてその下の169の細目にとらわれがちだ。もちろん、いずれも文句の余地のない立派な目標である。いわば「客観正義」である。ただし、それだけでは教科書的な「規定演技」の枠を超えることはできない。

実はSDGsには、18枚目のカードがあることをご存じだろうか? まだ何も書かれていないカードだ。そこには自社ならではの価値観、いわば「主観正義」を書き込んで、世の中に提唱すればよいのである。

例えば、ファーストリテイリングは「ライフウェア(究極の普段着)」を、花王は「KireiI Lifestyle」を、規定演技を超えた自由演技として、のびやかに展開している。

第2の落とし穴は、表面的になりすい点である。確かにサステイナビリティは、いかなる企業にとっても優先順位の高い経営課題となっている。しかし、真剣に取り組めば取り組むほど、投資やコストがかさみ、少なくとも短期的には収益を毀損してしまう。

社会価値と経済価値は、トレードオフになりがちだ。それを「トレードオン」に転換する経営モデルとして、ハーバード・ビジネス・スクールのマイケル・ポーター教授が提唱したのがCSV(共通価値の創造)である。詳細は、拙著『CSV経営戦略』をご参照願いたい。

経済価値を実現するには、規模の経済や範囲の経済を追求しなければならない。そのためには、いかにデジタルを活用し、グローバルに事業を展開できるかがカギを握る。

今、DX(デジタル・トランスフォーメーション)が脚光を浴びている。ただし、D(デジタル)が注目されがちだが、デジタルはあくまでツールでしかないことを忘れてはならない。いかに事業モデルや経営モデルそのものを変革するか。つまり、X(トランスフォーメーション)に取り組むことこそがDXの本質である。

グローバル経営は、米中対立、民族主義の台頭、そしてパンデミックの波を受け、抜本的な見直しを迫られている。そこでは、地経学へのダイナミックな対応が必須となる。そこで筆者は、多極化構造を捉える視点として、私は「グローバルズ」と複数形で使うことを提唱している。

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