ドラマ制作の"黒子"を悩ませる劣悪すぎる実態

「制作部」前編:裏方を支える"何でも屋"集団

「育てる余裕がないので、タダ働きしてもらって仕事を覚えてもらっているのが現状です。正直誰でもいいんです、とりあえず。居酒屋で飲みの席でスカウトしている人もたくさんいます。技術や美術も辞めちゃう人は多いですが、制作部ほどではありません」と、Bさんは苦笑しながら話す。

そして驚くべきことに、ドラマの制作部の人々のギャラは、なんと60年間変わらず、一度も上がっていないという。実に昭和30年代から現在まで、業界で不文律のように定められたギャラ水準がそのまま踏襲されているというのだ。これにはさすがに、30年近くテレビ業界で働いている私も耳を疑った。

「ドラマ業界では『七五三』というのですが、1本のギャラの相場は、チーフにあたる『制作担当』が70万円。セカンドにあたる『制作主任』が50万円。サードにあたる『制作進行』が30万円。これが60年前からいっさい変わっていません。

昭和30年代には、1年やれば外車が買えて、2年で家が建つ、と言われたらしいです。年齢や経験に関係なく、原則的にはすべてこの相場です。

かつては制作会社の社員の仕事だったものをアウトソーシングしたのが制作部の始まりだと言われていて、そのころの相場がそのまま残っているんですね。『制作部』と呼ばれるのもその名残です。ちなみに20年くらい前までは、TBSの現場には制作部という仕事はなくて、助監督さん(AD)がすべてやっていました」(Aさん)

サスペンスなどの2時間ドラマで1本撮影するのに、およそ2週間かかるのだという。だとしたら、ギャラ1本30万円でもさほど悪くはないのではないか、と思ったので聞いてみた。

「そう思うでしょ? でもね、月1本仕事をして、年間で12本仕事をしたら、死んじゃうんじゃないかと思うくらい忙しいんですよ。撮影期間に入ったら実質的には毎日24時間まったく休めません。午前3時、4時に『すみません』というひと言もなしに、当たり前のように電話がかかってくるんですから」(Aさん)

深夜24時に撮影が終わって、翌朝早朝6時から撮影再開ということも当たり前の、ドラマの撮影現場。撤収や準備なども考えれば、スタッフ誰もが睡眠不足になるほど働いている。だが、ほかのスタッフが仮に4時間休めるとしても、その半分しか休めないのが制作部なのだという。

みんなが休んでいる間に、準備しておかなければならないことも多い。なにせ彼らは「トラブルバスター」としてトラブルを解決し、撮影を前に進めなければならないのだ。

よほどのバカでないと続かない

「今までに印象に残るような大変なトラブルって、どんなことですか」と聞いてみた。するとAさんに笑われた。

「毎回、大変なトラブルしかありませんよ(笑)。そんなのいちいち覚えていたら、身体が持ちませんから。私はこれまで、クランクアップとともに意識を失って、気がついたら病院、ということが3回あります。一般の方々との調整というのは、本当に毎回想像もつかないようなトラブルが次々発生します。疲労性のうつ病になる人も多いんです」

Bさんもこう話す。

「スタッフも本当に『こんなことするの?』という、驚くようなことを毎回やらかします。重要文化財のお寺に釘を打っちゃったとか、貴重な苔を踏んでグチャグチャにしちゃったとか。『どうしよう?』って言われても……。ハッキリ言って、よほどのバカか、そうとう神経が図太くて身体が丈夫じゃないと、この仕事を続けられません」

制作部がいつも困らせられるのが、天気だという。雨が降って1日撮影ができないと、100万円単位のお金がパアになって飛んでいってしまうドラマの世界。なんとか代替案を考えて撮影を続行しなければならない。まさに「カメラを止めるな」の世界だ。

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