「虎屋」の大旦那が石橋貴明に明かす老舗の秘密 創業500年の歴史に潜む"新しさ"の源泉
ここまで長きにわたって商売を営んでくることができた理由を石橋が尋ねると、黒川は「志を同じくした仲間に恵まれたからだと思います。会社は最初の30年が正念場だったろうと思う。そのときにもきっと同士に支えられたんでしょう」と答えた。
いにしえの先祖の苦労を推し量る黒川の心には、今の会社を支える同士の顔が浮かんでいた。
花が咲いた甘いもの談義
「砂糖は昔は貴重で薬のようなものだったらしいですね」と、話は和菓子の歴史にも及ぶ。
そんな菓子の歴史をまじめに語り合う合間に、石橋が「洋菓子はお好きなんですか」と少し柔らかな質問をしてみる。黒川は「私は和菓子も洋菓子も大好きなんです。あまりに好きなもので、家で楽しみにしてると、いつのまにか隠されてしまうことがある」と言って石橋を笑わせた。
「じゃあ、こしあんと粒あんはどちらがお好きですか」と応酬する石橋。甘いもの談義はしばし続いた。
1991年から29年にわたって17代目社長を務めた黒川は、ちょうどこの夏、会長に退いた。新社長は黒川の長男・光晴氏。新社長と面識がある石橋は、弱冠35歳の新社長に父・光博が何を期待するか、興味を持った。
しかし「創業500年の歴史を背負うことの重責」といった硬い言葉が出てくるかと思いきや、黒川からは「きっと僕なんかよりもやってくれますよ。楽しみなんです」と意外な答えが返ってきた。老舗のプレッシャーなどという言葉は微塵も出ない。
黒川の言葉の真意を石橋が尋ねると、その背景には親子の強い信頼関係がにじみ出てくる。
虎屋は代々、黒川家が店主と務めてきた。だが意外なことに、虎屋には一代一人限りという不文律があり、親類縁者もいないという。
なぜなのかと石橋が問うと、「数代前からずっとそうしており、理由は定かではない。息子も幼少時代から徐々に自分が継ぐのだという思いを明確なものにしていったのだろう」と話す。そこには世襲制の会社が持つ閉じられた雰囲気はまったく感じられず、一方でとくとくとその経営方針をひけらかすこともない。
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