「虎屋」の大旦那が石橋貴明に明かす老舗の秘密 創業500年の歴史に潜む"新しさ"の源泉
18代目新社長に寄せる期待の裏には、「店舗数を増やすこと、会社の規模を増やすこと」が老舗虎屋の成長ではないという、代々伝わる価値観を新社長とも共有してきた確信がある。
「成長は規模ではなく、品質と働く人の向上である」「伝統とは歴史を守ることではなく、あくなき質の向上だ」と語る黒川の表情の奥には、伝統と革新という老舗の宿命を背負ってきた者が持つ信念を感じさせられる。虎屋の新時代は、まさにそんな礎の上に開かれていくのだろう。
伝統の老舗が新しいことに挑戦する難しさは、黒川の選ぶ一つひとつの言葉にもにじみ出る。その中でも、黒川は2000年代に「革新」的な挑戦を行う。洋菓子を売るTORAYA CAFÉの立ち上げだ。
よほどの覚悟が必要だったろうが、黒川は「六本木という新しい街が作られていくというタイミングで、今がチャンスだとなんとなくピンときた」。海外にも出店してきた実績を生かせる集大成と感じ、出店を決意したという。
ようかんを世界の菓子に
黒川の父である16代目社長が1980年にパリに支店を出してから、今年で40年。今ではすっかりパリっ子にも慣れ親しまれてきた。
そんな虎屋を守ってきた黒川には、さらに大きな夢がある。「ようかんを世界の菓子」にしていくのだという。
黒川はチョコレートを引き合いに出して、石橋に語る。カカオが発見されたのは紀元前とかなり古いが、何度挑戦してもうまい調理法が見つからなかった。そんなチョコレートがこの150年で瞬く間に世界に広まったことを考えると、「たとえ数百年かかっても、ようかんが世界に広まっていくことは可能だ」と目を輝かせながら石橋に語る。
しかし最も石橋を驚かせたのは、その後につながる黒川の言葉だ。「多くの人たちの手によって和菓子が世界に広まるとしたならば、別に虎屋である必要はない」という。飄々(ひょうひょう)とその思いを語る黒川の目にウソはない。
和菓子を世界に広めたいという思いは、社会に貢献していくという思い。「会社を大きくしたい」という一企業の野望ではない。経営理念が利己的な動機ではないからこそ、のれんがここまで続いてきたのだろうか。和菓子業界を牽引するリーダーの言葉は、どこを切り取っても、ようかんのように深い味わいがあった。(敬称略)
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