福島県の情報漏洩疑惑、「お手盛り調査」の実態 疑い持たれた部署が調査や文案作成を担当

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ほかにも重大な事実が明らかになった。東洋経済が入手した東電の社内記録から、1キログラム当たり8000ベクレルを超える高濃度の放射能汚染のある廃棄物が、ひそかにJヴィレッジの敷地内に保管されている事実が判明したのである。8月3日の東電の公式発表によれば、その中身は廃プラスチックと汚泥であり、総量は72立方メートル。廃プラスチックと汚泥に含まれる放射性物質の濃度は1キログラム当たり2万5900ベクレル、1万4400ベクレルに上る。ただし、その保管場所について、東電は「管理上の理由」から開示を拒んでいる。

これらについては除染特措法に基づいて「指定廃棄物」として申請し、中間貯蔵施設で適切に管理されるべきものだが、東電がJヴィレッジの施設を福島県側に返還して2年が経過した今年7月末にようやくその手続きが終了した。

これまでJヴィレッジは、敷地内の高濃度の放射性物質を含む廃棄物を保管している事実を公表しないまま、宿泊客を誘致し、青少年によるサッカーの合宿や練習試合も行われていた。さらに、東京オリンピックの聖火リレーのスタート地点にも予定されていた。

利害関係のない部署が調査すべき

そもそもの問題の発端は、放射性物質を含む廃棄物を東電が撤去せずに施設とともに福島県側に引き渡したことにある。福島県はそのことを問題にしていたが、Jヴィレッジに保管しているという事実については隠し通すように東電に求めていた。

福島県は東電に対し、「廃棄物の処理は東電が責任を持って実施すべき。県の了解なしに〈Jヴィレッジ内で保管されている事実について〉メディアに回答を行うことは許さない」(4月23日付の東電社内記録)などと強い態度を示した。

また、5月8日の東電の社内記録では「福島県から現在、Jヴィレッジで保管している8000ベクレル/㎏超の廃棄物の指定廃棄物申請が完了しなければ公表は受け入れられないとの回答が〈東電の〉立地地域部にあった」との記述もある。福島県は風評被害を招く恐れがあることを理由に東電に口止めしていたことも、東電の社内記録で判明した。

福島県から東電への個人情報の漏洩疑惑は、こうしたやりとりのさなかに持ち上がった。福島県個人情報保護条例は、入手した個人情報を目的外で使用してはならないと定めているが、情報公開請求をしていたおしどり氏の氏名が東電の記録に残っていた。

振り返ってみれば、Jヴィレッジの歴史とはすなわち、福島県と東電との密接な関係の歴史でもある。1990年代に東電は福島第一原発の7、8号機やプルトニウム燃料を利用した発電を計画。東電はJヴィレッジを建設したうえで「地域貢献」の名目で福島県に寄贈し、県エネルギー課が所管する「福島県電源地域振興財団」が土地建物を所有した。また、現在もエネルギー課の職員の多くが、同財団の職員を兼務している。

一方で、東電は原発事故を引き起こした加害者であり、福島県は県の全域を放射能で汚染されたうえ、今なお数万人の県民が避難生活を余儀なくされているという点で被害者の立場だ。しかし、両社の間にはもたれ合いとも言える関係が存在している。

福島県が潔白を主張するのであれば、東電とのつながりが深いうえに疑惑を持たれているエネルギー課とは別の独立した組織による徹底した真相究明が必要だ。

岡田 広行 東洋経済 解説部コラムニスト

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おかだ ひろゆき / Hiroyuki Okada

1966年10月生まれ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒。1990年、東洋経済新報社入社。産業部、『会社四季報』編集部、『週刊東洋経済』編集部、企業情報部などを経て、現在、解説部コラムニスト。電力・ガス業界を担当し、エネルギー・環境問題について執筆するほか、2011年3月の東日本大震災発生以来、被災地の取材も続けている。著書に『被災弱者』(岩波新書)

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