感染者ゼロ続くタイで自殺者が増えている皮肉 なぜ感染者・死亡者が少ないのかも不明

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ある女性は、約束されていた政府の緊急支援金の支払いが受けられずに、その後、政府の建物の前で殺鼠剤を飲んで自殺を図った。この女性は一命をとりとめたが、タイ国内での自殺は増加している。

パンデミックの発生をきっかけに設立された慈善団体「COVIDタイ・エイド」の創設者の1人、ナタリー・ナークプラサートは、同団体には銀行口座に1ドルか2ドルしか残っていないような人たちから、援助の依頼が押し寄せていると言う。

再び感染者が増えるリスクも

近隣のミャンマーやカンボジアからタイに出稼ぎに来ている多くの労働者も、やはり打撃を受けている。国境が封鎖される前に何とか母国に戻った人たちもいたが、戻れなかった人たちはタイから出られず、ホテル清掃や調理補助、屋台の運営といった仕事からの賃金も得られなくなった。「状況が非常に長引いており、よくなる見込みもないので、いまこそより多くの支援が必要だ」とナタリーは言う。

最近タイでは、日常が少し戻り始めた。学校は再開され、子どもたちはマスクを着用し、机の間隔を空けて勉強している。4月の旧正月の行事はキャンセルされたが、7月初めには数カ月ぶりに祭日と重なる週末が訪れ、国内の旅行は上向きになった。

また、タイは少しずつ外国人の入国を認め始めた。しかし、新たに訪問してくる人がいれば感染のリスクも高まる。

7月第3週には、エジプト軍のパイロットが検疫をすり抜けて、タイの海岸沿いの町のショッピングモールを訪れた後、コロナウイルスの検査で陽性となった。この地域の学校は、一部が再び休校となっている。2人の活動家が、政府の検疫の対応に抗議を行ったところ、タイの緊急命令に違反したとして逮捕された。

また、タイから母国に強制送還された出稼ぎ労働者が、母国に到着後すぐに検査で陽性と判定されたことにも、疑問が投げかけられている。彼らはタイ国内の公式の感染者数にはカウントされていなかった。タイの検査数は比較的低い水準にとどまっている。

前出のタイ保健省の報道官は、「病気はまだ存在しているので、警戒を強めなればならない」と話している。

(執筆:Hannah Beech、翻訳:東方雅美)
© 2020 The New York Times Company

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