感染者ゼロ続くタイで自殺者が増えている皮肉 なぜ感染者・死亡者が少ないのかも不明
タイ保健省の新型コロナウイルス担当報道官のタウィーシン・ウィサヌヨーティン氏は、「免疫や遺伝的な問題だけではないと思う」と話す。「文化が関係しているはずだ。タイの国民は、あいさつをするときに相手の体に触れない。メコン川流域のほかの国々でも、その点は同じだ」。
タイもつねに調子がよかったわけではない。1月には、中国以外の国としては初めて、タイで感染者が確認された。武漢からの旅行者だった。次の感染の波は、日本やヨーロッパ、アメリカからタイに入国した人々から始まった。タイ式ボクシングのイベントでは、多数の感染者が出た。
しかし、3月にロックダウンが実施され、会社や学校などが閉鎖された後は、国内での感染は減っていった。最近の感染例は、海外から入国した人だけだ。
感染者数は少ないが、経済は最悪
バンコクにあるチュラロンコン大学の公衆衛生の専門家、ウィプット・フーチャローン氏は、タイ南部のパッターニ県での感染急拡大について調べている。同氏によると、検査で陽性となった人の90%以上が無症状だったという。通常よりかなり高い割合だ。
「私たちが研究しているのは免疫システムだ」とウィプット氏は言う。彼によると、タイと東南アジアのメコン川周辺地域の人々は、他国の人たちに比べて重いデング熱にかかりやすいという。「もし私たちの免疫システムがデング熱に弱いのであれば、コロナウイルスには強いということも、ありうるのではないだろうか」。
感染者数も少ないため、タイの病院は新型コロナで崩壊していないが、観光業に依存している同国の経済は打撃を受けている。
今年4月に、ロックダウンが強化されるなか、タイでは海外から国内へのフライトがほぼすべて禁止された。以前は世界で最も旅行者が多かったバンコクだが、旅行客が訪問することはなくなった。タイの観光・スポーツ省は、ホスピタリティー事業の60%が、年内に廃業する可能性があるという。
国際通貨基金(IMF)は、タイ経済が2020年は少なくとも6.5%縮小するだろうと予測する。また、世界銀行は、ただでさえ貧富の差が大きく開いているこの国で、2020年はさらに800万人のタイ人が失業するか収入を失う可能性があるという。タイの世帯負債額はアジアでは最も高いレベルにあり、生活に困窮した人々は、仏教寺院の前に列をなして、コメを分けてもらっている。