イノベーション企業が「ゆでガエル」になる理由 ベニオフCEO「企業は社会に信頼を優先せよ」

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フェイスブックは、現在17億人まで普及しているといわれています。いずれ50億人ぐらいに普及すれば、ほぼ世界全体を制してしまうので、限界が来てしまいます。主な収入は広告ですし、1人当たりの売り上げもそんなに伸びないでしょう。そうなったらその先、成長のために、いったい何をするのでしょうか。考えても、答えは見えません。

インフラビジネスとしての社会への責任

そこで、こう考えてみましょう。例えば、東京電力は、東京圏の電力を一手に引き受けるインフラ会社ですよね。東京圏のほとんどの世帯は東京電力と契約しています。ここから東京電力が成長するということはあるでしょうか?

ありませんよね。成長はしませんが、収益は毎年同じようにあがる。毎年、東京圏の全世帯から電力料金が入ってくる。そして、ただ安定しているからみんなが株を買う。そういう企業です。

GAFAも、セールスフォースも、プラットフォームならば本来そういうものなのです。まだ行き渡ってないから成長しているが、制してしまったらもう成長の余地はない。

すると、ますます企業体としてのコンセプトが強く効いてくるということになるでしょう。「インフラビジネス」として、社会に対する責任、バリューというものを、やはりもっと真剣に考えなければならないと思うわけです。

ベニオフは、「イノベーションは重要だが、信頼よりもイノベーションに重きを置き始めると、熱湯に身をさらすことになってしまう。ぬくぬくと湯に浸かっているカエルは、沸騰しても反応することができない」と書いています。

そして、「バリュー、とくに信頼を優先させれば、利益が犠牲になる場合がある。しかし、短期的にはそうだとしても、四半期の収益が時間とともに失ったかもしれない信頼よりも値打ちがあることは絶対にない」と。

誰の信頼かといえば、働く人、取引先、顧客など、セールスフォースを取り巻く社会すべてということです。ベニオフもまだ悩みながら進んでいるという感じが伝わってきますが、その悩むプロセスそのものが会社においても、社会においても重要なことだと考えさせられます。

(後編に続く)
[構成:泉美木蘭]

佐々木 俊尚 作家・ジャーナリスト

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ささき・としなお / Toshinao Sasaki

1961年兵庫県生まれ。早稲田大学政治経済学部中退。毎日新聞記者、『月刊アスキー』編集部を経て、2003年よりフリージャーナリストとして活躍。ITから政治、経済、社会まで、幅広い分野で発言を続ける。最近は、東京、軽井沢、福井の3拠点で、ミニマリストとしての暮らしを実践。『レイヤー化する世界』(NHK出版新書)、『そして、暮らしは共同体になる。』(アノニマ・スタジオ)、『時間とテクノロジー』(光文社)など著書多数。

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