8人の大混戦となるWTO次期トップ選挙の行方 韓国も立候補するが日本は人材が乏しく傍観

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――すでに7月15日から8候補がWTOの一般理事会で所信表明を行っています。選挙運動期間は2カ月間で、さらにそれから絞り込みのプロセスを2カ月以内に終えてようやく、新事務局長が誕生する予定になります。そのため、アゼベド事務局長が退任後、しばらく空白が生まれます。

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ここでも米中対立の影響を受けそうです。アメリカは、新事務局長はWTOから中国の影響力を排することができる人材が必須としており、選挙戦での米中対立は避けられないでしょう。そのため、後任は米中がともに折り合える人材が求められ、これにEUを含めた大国のディール次第で選ばれることになりますが、誰に落ち着くかまったく予断できません。

最悪のシナリオとして、米中それぞれが推す候補者が拮抗して合意が得られない場合、ムーア氏とスパチャイ氏で加盟国の意見が分裂した1999年の再来となります。しかし中国が推す候補者をアメリカが頑なに拒否し続ければ、1999年のような妥協さえも難しくなるでしょう。機能不全に陥っている上級委員会のように、事務局の機能さえも麻痺してしまうこともありえます。

「誠実な仲介者」が出てくるか

――WTO事務局長にふさわしい条件があるのでしょうか。どういった素養や経験を持つ人が事務局長になるべきなのでしょうか。

かつてWTO事務局長やUSTR次席代表を務めたルーファス・ヨークサ氏は、「WTO改革の成功には、各国をバランス良くまとめる『誠実な仲介者』たる事務局長が必要だ」と述べています(日本経済新聞2020年7月2日付)。

また、欧州大学院のホークマン教授(イタリア)とコロンビア大学のマブロイディス教授(アメリカ)らの研究グループが2020年6月に、世界の通商専門家に対して1000人規模のアンケートを行っています。私もこれに回答しましたが、事務局長には個人の特性として組織運営能力が最重視されているとの結果が出ています。これにほんのわずかの差で政治経験や経済学的素養、WTO交渉での経験と続いています。

また、その選択に当たっては個人の能力がトップで、次に、これもわずかな差で出身地域の多様性の確保を基準とすべき、との意見が多く見られました。こういった人物がWTO事務局長にふさわしいということです。

福田 恵介 東洋経済 解説部コラムニスト

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ふくだ けいすけ / Keisuke Fukuda

1968年長崎県生まれ。神戸市外国語大学外国語学部ロシア学科卒。毎日新聞記者を経て、1992年東洋経済新報社入社。1999年から1年間、韓国・延世大学留学。著書に『図解 金正日と北朝鮮問題』(東洋経済新報社)、訳書に『朝鮮半島のいちばん長い日』『サムスン電子』『サムスンCEO』『李健煕(イ・ゴンヒ)―サムスンの孤独な帝王』『アン・チョルス 経営の原則』(すべて、東洋経済新報社)など。

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