8人の大混戦となるWTO次期トップ選挙の行方 韓国も立候補するが日本は人材が乏しく傍観

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――そもそも、WTO事務局長はどのような人が就任する傾向があるのでしょうか。

川瀬剛志(かわせ・つよし)/上智大学法学部教授。慶應義塾大学法学部卒。アメリカ・ジョージタウン大学ローセンター修了。慶応義塾大大学院研究科後期博士課程中退。神戸商科大(現・兵庫県立大)商経学部助教授、経済産業省通商機構部参事官補佐、経済産業研究所研究員、大阪大学大学院法学研究科准教授を経て現職。(写真:本人提供)

歴代事務局長を振り返ってみると、欧州出身者は多いですね。また、例えば国連の場合には慣例上、トップの事務総長は中・小規模国から選ばれるということがあります。しかし、WTOはEU加盟国からすでに3人、特にG7参加国のフランス、イタリアから選出されているので、国連とは違う傾向があります。

スパチャイ氏以降は途上国と先進国から交互に輩出されていますが、これもあえてそうしたというよりは偶然の産物であるでしょう。最近の報道を観ると、「アフリカ出身の2候補が有利」とか、逆に「今回は先進国の番だ」といった様々な下馬評が流れているほどです。

ただ、これまでの事務局長はすべて閣僚を経験した政治家であり、政治経験のない官僚出身者はアゼベド事務局長が初めてでした。ムーア、スパチャイ両氏のように政府トップ級の大物政治家もいます。

もちろん、WTOの本部があるスイス・ジュネーブを中心とする通商コミュニティで顔が知られていることも重要です。例えばラミー氏は欧州委員として通商交渉の最前線に経った経験を持ちます。アゼベド事務局長もジュネーブ大使でした。ムーア氏も貿易相としてウルグアイラウンド交渉に携わっています。

本命不在で混戦は必至の情勢

――そういった経緯から判断すれば、今回の8人の立候補者の中では誰がふさわしいでしょうか。

立候補者のリストを見ると、まずメキシコのセアデ、エジプトのマムドゥ、韓国の兪明希(ユ・ミョンヒ)の各氏は閣僚級の政治経験を持たない点で小粒です。ただ、セアデ氏はWTOで事務局次長を、マムドゥ氏はサービス部長を務めた強みがあり、その点で兪氏はもう一段見劣りします。

報道では、閣僚を経験し、女性かつアフリカ出身という清新なイメージを持つためか、ナイジェリアのオコジョ=イウェアラ氏と、ケニアのモハメド氏が有力視されています。オコンジョ=イウェアラ氏は世界銀行のナンバー2も務めていますが、モハメド氏はWTOでは一般理事会議長や2015年のケニアでの閣僚会議でも議長を務めるなど、通商分野での経験が豊富です。ただ、2012年に一度事務局長選に落選していることが、どう影響するか。

米通商代表のライトハイザー氏は英国のフォックス氏を評価しているようですが、大国出身の政治家として混迷するWTOで指導力を発揮することが期待されます。サウジアラビアのアル-トワイジリ氏は閣僚経験に加え、金融業界での実績があり、ビジネスの経験をWTOの組織運営に生かすことを売りにしているようです。モルドバのウリヤノブスキ氏はWTO代表部大使と外相を歴任していますが、37歳の若さゆえに経験不足が指摘されています。

ただ、多くの候補は足元の出身地域の支持も固め切れていません。セアデ氏は中南米の支持はあるようですが、北米の支持は不明。フォックス氏はEUを離脱したイギリス出身、かつ本人がEU懐疑論者ですので、欧州が一致して押すかどうか。アル-トワイジリ氏と兪氏も、地域内の政治対立から、それぞれ中東、東アジアの地域一体の支持を得られません。アフリカ出身の3人をめぐってもアフリカ票が割れる可能性があります。

こう考えると、正直に言えば、本命がおらず混戦が予想されているのも納得できる状況です。

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