大阪のオフィス市場、漂う「坪4万円」への暗雲 「大空室時代」のトラウマが賃料上昇の壁に

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ツインタワーズ・サウスのような例は特殊で、大阪に立つほとんどのオフィスビルにとっては坪3万円でさえ高いハードルだ。

新規の募集賃料を坪3万円台に設定できるエリアは梅田周辺などごく一部。1月に竣工した「オービック御堂筋ビル」はビジネス街である御堂筋に位置する高級ビルだが、「募集賃料は坪2.5万円前後で推移している」(関係者)。新幹線へのアクセスの良さから注目が集まる新大阪駅前でも、同じく坪2.5万円が天井だ。繁華街である難波に至っては坪2万円にすら届かない。

大阪が仰ぎ見る坪4万円の壁だが、東京にとっては決して難しくない水準だ。7月に竣工した「東京虎ノ門グローバルスクエア」は「坪4万円前後で動いている」(都内の中堅デベロッパー)。丸の内・大手町などの伝統的なオフィス街や、IT企業が勃興する渋谷では坪5万円超での成約も珍しくない。

「グランフロント大阪」というトラウマ

都内では、坪3万円は新興オフィス街が目指す水準だ。商業色の強い池袋で5月に竣工した東京建物の「ハレザタワー」は坪3.2~3.3万円で成約した。割安感のあったJR山手線田町駅では、駅前に立つ「msb(ムスブ)Tamachi 田町ステーションタワー」でも坪3万円台での成約事例が出ている。

大阪のオフィス賃料が東京と比べて割安な理由には、大阪で長らく続いた「大空室時代」のトラウマがある。その象徴が、2013年に大阪駅前に建てられた「グランフロント大阪」だ。計3棟の超高層ビルで構成され、オフィス部分の延べ床面積だけでも約23.6万平方メートルと屈指の規模を誇った。

ところが、供給の時期が悪かった。当時の大阪はリーマンショックの傷が癒えておらず、市内のオフィスビルには空室が目立っていた。そんな環境下で超大型のビルが供給され、市場は飽和状態に陥った。不動産サービスのCBREによれば、大阪市内のグレードAオフィスビルにおける空室率は2012年12月時点で8.7%。グランフロントが竣工した同年3月には18.2%に跳ね上がった。

当のグランフロントも賃料を下げなかったためテナントがつかず、開業当初の契約率はおよそ2割にとどまった。

東京と比較して大阪のオフィス市場は小さい。オフィス仲介の三幸エステートによれば、2019年12月時点でのオフィスビルのストック(大規模~中型ビルの合計)は、東京23区が1188万坪に対して大阪市は320万坪。同じ面積のビルが供給されても大阪は需給が緩みやすく、2015年にも新ダイビル(延べ床面積約7.7万平方メートル)や日本生命本店東館(同約6万平方メートル)などの大型供給があり、テナントの抜けた既存ビルで空室が発生した。

既存ビルはテナントを引き留めるために不況時の賃料を据え置き、新築ビルも安く置かれた周辺相場に引きずられ、新築というプレミアムをもってしても高い賃料を提示できないままだった。

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