コロナ患者を地域で診る「相模原モデル」の苦闘 北里大学病院長に聞く診療体制の難しさ

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――手術の延期などによる病院経営への影響は。

岩村 ものすごく大きい。5月の病院の収入は昨年の半分しかなかった。1年通じてみても、病院が始まって以来の赤字が避けられない。

――国は、コロナの重症患者を受け入れた場合のICUに関する加算を3倍に増やす一方、第2次補正予算でコロナ患者のために病床を確保しておいた場合の空床補償の財源も手当てしました。

岩村 1床空けておいた場合の国の補助のレベルでは、当院の1床当たりの1日平均単価には全然及ばない。

――感染拡大局面で受け入れたコロナ患者はいったん退院しました。病院が元に戻る見通しは。

新型コロナ中等症患者を新たに受け入れる旧東病院の専用病床

岩村 6月の下旬から手術件数は徐々に元に戻りつつあるが、一般の入院患者の受け入れは完全に元の水準には戻らない。

第2波が襲来したときの対応方針を示したロードマップはできつつあるので、もちろんコロナの患者の増加には対応できるが、収支は非常に厳しい。

適切に対応すれば重症化は防げる

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――苦労が絶えませんね。

岩村 唯一の救いは、当院に入院して亡くなった患者が一人もいないことだ。ECMOで救命した患者や、報道で知られるようになったコロナウイルスに感染した妊婦も無事に出産し退院できた。肺に一部障害が残った方はいらっしゃるが、元気に退院できた方がほとんどだ。適切に対応できれば重症化を防げることがわかった。

――コロナに関する政府の対応について、一部では過剰だったのではないかとの指摘もあります。

岩村 (感染対策も含め)ここまでの対応が必要だったのかと言われるのがいちばん忍びない。次への備えで油断してしまう心配がある。結果的に患者の数が少なかった反面、経済界の損失は非常に大きい。そのことを取り上げて、行政の指示に行きすぎがあったのではないかとの批判が出てくるとしたら、それは必ずしも正しいとはいえないと思う。コロナウイルスの怖さを正確に認識し、もっと大きな感染の波が来る可能性も想定して準備しておく必要がある。

岡田 広行 東洋経済 解説部コラムニスト

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おかだ ひろゆき / Hiroyuki Okada

1966年10月生まれ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒。1990年、東洋経済新報社入社。産業部、『会社四季報』編集部、『週刊東洋経済』編集部、企業情報部などを経て、現在、解説部コラムニスト。電力・ガス業界を担当し、エネルギー・環境問題について執筆するほか、2011年3月の東日本大震災発生以来、被災地の取材も続けている。著書に『被災弱者』(岩波新書)

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