コロナ患者を地域で診る「相模原モデル」の苦闘

北里大学病院長に聞く診療体制の難しさ

(右)岩村正嗣(いわむら・まさつぐ)/北里大学病院長 1958年生まれ。北里大学医学部泌尿器科学主任教授、北里大学病院副院長などを経て、2018年から現職
(左)高山陽子(たかやま・ようこ)/北里大学病院 危機管理部 感染管理室長 1970年生まれ。東北大学病院感染管理室副室長などを経て、2013年から現職。2014年から北里大学医学部附属新世紀医療開発センター 横断的医療領域開発部門 感染制御学准教授

――特別病棟の16床ではどのような患者に対応したのでしょうか。

岩村 クルーズ船の患者で特別病棟に入院したのは、主に酸素療法など呼吸管理が必要な「中等症」の患者。一方、特別病棟とは別にEICU(救急集中治療室)の一部を重症のコロナ患者用に振り向け、人工呼吸器やECMO(体外式膜型人工肺)を使って治療に当たった。EICUにある陰圧室を活用する一方、熱傷患者用の個室を陰圧室に改造して対応し、計3人の重症患者の治療に当たった。

軽症者については、3月31日に閉院を予定していた東病院の一角を用いて7人を受け入れた。同日までにクルーズ船の患者はすべて退院したので、東病院は予定通り閉院させた。

――4月7日には緊急事態宣言が神奈川県を含む7都府県に発出され、その9日後には緊急事態宣言の対象は全国に拡大しました。

岩村 重症度に応じて、地域の医療機関が分担してコロナ患者を受け入れる「神奈川モデル」が打ち出されたのは4月に入ってからだった。そこで当院を含む大学病院は高度医療機関として重症患者を受け入れる役割を担うこととなった。当院ではEICU20床のうち4床を充ててコロナの重症患者を受け入れる態勢を構築したうえで、4床を超えて重症患者が増えた場合には、10床あるGICU(一般集中治療室)をコロナ専用病棟に切り替えることで最大14人まで受け入れる態勢を構築した。

重症のみならず中等症患者も受け入れ

――一般の患者への対応はどうなりましたか。

岩村 そこで初めて診療制限を実施した。4月10日、私から近隣の病院向けに、手術件数の50%を削減するとアナウンスした。コロナの重症患者のために救急や麻酔科の医師を確保するには、ほかの手術を止めないといけない。入院制限を実施し、病床の稼働率を平時の約90%から70%まで落とした。その結果、病院の収益は急速に悪化した。

――コロナ患者の受け入れ態勢整備には覚悟が必要ですね。

岩村 やるしかないと思って踏み切ったが、実際に受け入れた患者数は予想された人数の10分の1にとどまった。当初、厚労省より発表された想定患者数は相模原医療圏(約72万人)で入院が必要な患者数約1000人、中等症患者数200人、重症患者約30人であった。当院が重症患者のうち最大で14人に対応し、ほかの基幹病院も含めて30人については何とか対応はできるとの見込みだった。

重症患者とは別に、中等症患者の受け入れ態勢をどう構築するかが大きな問題となった。県が打ち出した「神奈川モデル」では酸素投与等が必要な中等症患者は、当院のような3次救急を担う高度医療機関とは別の病院が対応することになっていた。しかし、2次救急を担うそれらの病院では十分な感染防止策を講じることが難しいということで、受け入れ態勢をうまく構築できなかった。そうした中で、当院としても「重症患者は受け入れるが、中等症患者はほかの病院にお願いします」というわけにもいかなかった。

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