名著「ペスト」に学ぶコロナ第2波を生き抜く力 10分でわかる未知のウイルスへの向き合い方

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彼らの元には「やるべきことははっきりしている」という志を持つ仲間が集いました。彼らは不自由な中でもできることがあることを知っていたのです。

カミュが求めているのは、アニメや漫画に登場するような英雄たちではなく、ただの人間。まったく英雄的な要素を持たないまま、「自分にできることをする」と、任務を果たす人間なのです。この姿に「自由な人間」というモチーフが最も表れています。

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「実存主義」が示す「人間の自由」とは、夢や希望に満ちたものではありません。むしろ、厳しく己の不自由を自覚させるものです。

しかし、この不自由の自覚から、本来的な自由が見いだせるのです。選択は「なぜ」に対する答えが見えるから可能になる。私たちはこう信じています。

では、その答えがまったく見えないとき、何を選択したらよいのでしょう。それでも選ばなければならないのが「自由」なのです。

コロナ禍を経て、私たちはどんな未来を見るでしょうか。いや、未来を見ることはできません。しかし、未来は私たちに懸かっているのです。

誰かに頼るのではなく、自分で決めて進む

誰かが提示する未来のビジョンに向かって、一斉に猛進することはやめましょう。そのビジョンがまやかしだったとき、このような進み方は総崩れしてしまうでしょう。それどころか、取り返しのつかない大怪我をしてしまうかもしれません。

自然は人間の予測をやすやすと超えてくる。この衝撃は、まだ生々しく、私たちの身にしみているはずです。むしろ、未来は見えないということを自覚しましょう。

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何もかも見えるから自由でいられるのではありません。見えないからこそ、人間は自由であり続けられるのです。盲目であることを自覚し、盲目にあらがう。こうして、今を丁寧に生きられるのです。

「ウィズコロナ」は、選択肢が2つあることを示唆しています。

自由を放棄し、見えているふりをして自滅する選択肢、もしくは、見えないことを自覚し、おごらずに生きる選択肢。

さて、あなたはどちらの側に行くでしょうか。どちらにいても、死ぬときは死にます。しかし、己の自由に誠実に生きた人間のみに許される言葉があります。

「すべてはいいのだ」

タルーの最期の言葉です。彼のように、ウィズコロナの時代を自分に誠実に生き切りたいものです。

大竹 稽 教育者、哲学者

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おおたけ けい / Kei Otake

1970年愛知県生まれ。1989年名古屋大学医学部入学・退学。1990年慶應義塾大学医学部入学・退学。1991年東京大学理科三類入学・退学。2007年学習院大学フランス語圏文化学科入学・首席卒業。2011年東京大学大学院総合文化研究科地域文化研究専攻修士課程入学・修士課程修了(学術修士)、フランス思想を研究。その後、博士後期課程入学・中退。博士課程退学後は建長寺・妙心寺などの禅僧とともに「お寺での哲学教室」や「お寺での作文教室」を開いている。

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