カミュは、『ペスト』の主人公リウーを借りて、こんなメッセージを残しています。
「医師リウーはこの物語を書く決心をした。語らぬ人の仲間にならないために」
「語らぬ人」とは、ペストの災厄を忘れてしまう人たちのことです。どれほど大きな出来事であっても、人間の記憶は薄れていくもの。これをカミュは「人間の罪であり人間の強みでもある」と表現しています。
人間には、このような両面があるのです。人間とはまったき強者でもなく、まったき罪人でもない。記憶もつねに不完全。だからこそ、忘却にあらがうという自由な選択が生まれます。
カミュをはじめとする「実存主義」の思想家たちは、「選択するという責任と危険を引き受ける者が自由な人間」であると考えます。
「自由な人間」とはいかなる人か
『ペスト』の登場人物から、「自由な人間」について考察していきたいと思います。まずは、パヌルー神父です。
彼は説教で「みなさんは災厄の中にいる。それは当然の報いである」と切り出しています。さらに、「あなたたちは罪のなんたるかを知ることでしょう」と続けます。
パヌルー神父は、戦闘的ではあるものの、博学で誠実な神父です。「あなたたちは罪人である」という宣告によって、人々を本気で救おうとしたのです。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら