小学校から渡される宿題の量が多くて一向に進まず、明美さんは、“宿題ノイローゼ”になった。一方で、夫は家にいながら部屋にこもって仕事だけに集中している。明美さんが1人で家事も育児もこなし、「明らかに不平等だ」と思えてならなかった。
太郎君を勉強に集中させるには、次郎君にゲームをさせるかDVDを見せるしかなかった。しかし、それを太郎君が「ずるい」と怒って、やる気をなくす。明美さんは、太郎君に「勉強しなさい! バカじゃないの!」と、怒鳴ってはヒートアップしてしまい、それが止められない。「見る人が見れば、虐待だ。私は保育士で、虐待なんて許せないと思ってきたのに」と、精神的に追い詰められていった。
在宅ワークが始まってから2週間後、「もう無理です」と上司に直談判すると、太郎君の学校が再開するまで賃金が100%補償されたうえで休業できることになった。ただ、夫が家にいながら“不在状態”の生活スタイルは変わらない。
夫はコロナ前より長時間労働になった。電話やオンラインの会議が頻繁にあり、子どもたちの騒ぐ声に「電話ができない」と怒ってしまう。今度は、外で遊べない次郎君が家で騒がないようにするプレッシャーもかかった。
虐待だとわかっていながら…
日本労働組合総連合会(連合)が6月5~9日に行った「テレワークに関する調査2020」(今年4月以降にテレワークを行った全国の18~65歳の1000人が回答)では、小学生以下の子どもを抱える回答者の9割が「テレワークの困難さを感じている」と答えた。「通常の勤務よりも長時間労働になることがあった」という回答も全体の半数を占め、決して、明美さんの家庭だけの問題ではないことがわかる。
夫の在宅ワーク最終日でもあり、明美さんの自宅待機の最終日でもあった5月31日、明美さんは「ついに、してはいけないことをしてしまった」と打ち明ける。静かにできない次郎君を暗い部屋に閉じ込め、ガチャッと鍵をかけたのだ。
太郎君が異変に気づき、慌てて部屋の電気をつけて泣いて謝る次郎君を助け出した。閉じ込めたのは、わずか5秒くらいのことだったが、その日、明美さんは放心状態となった。虐待とわかっていながら、そうせずにいられなくなった罪悪感でいっぱいになった。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら