1980年には少額貯蓄等利用者カード(グリーンカード)が導入され、当時あった少額貯蓄非課税制度を仮名を使って悪用する行為を防ごうとしたが、結局廃止されてしまった。住民基本台帳ネットワークを利用するための住民基本台帳カードも2003年から交付が始まったが、さまざまな抵抗にあって普及が進まなかった。基礎年金番号も他の制度での利用は広がらなかった。
1980年代初めには、「クロヨン」とか「トーゴーサン」という所得の捕捉率の差を揶揄する言葉が新聞・テレビにしばしば登場するほど、課税の不公平感が強かった。クロヨンはサラリーマンの給与所得は9割を捕捉されるのに対し、事業所得は6割、農業所得は4割しか捕捉されないという意味だ。トーゴーサンは、10・5・3のことで、所得捕捉率の差はもっと大きくて、それぞれ10割、5割、3割だというものである。
今日ではメディアでこうした所得捕捉率の差が取り上げられることはほとんどなくなった。1989年に消費税が導入されて、徐々に消費税率が引き上げられてきたため、間接税の割合が高まったことも1つの原因だろう。この結果として直接税において公正な課税が行われないという問題が放置されることになってしまった。
しかし、消費税には所得税のように高所得者ほど高い税率を適用することによる所得格差縮小の機能がない。また、所得税では給与所得控除の縮小などによって高所得層の税負担を重くするということが行われてきたものの、それはあくまで給与所得者の間での調整にすぎない。所得の種類による捕捉率の差という問題は放置されてきた。そもそも、競争を促進して経済を活性化させるという考え方の下で、格差の拡大を是認する雰囲気すらあった。
シェアやネットの発展で所得把握はより難しく
今後シェアリング経済の拡大やインターネットを利用した取引が拡大していけば、個人レベルでの事業所得の把握はますます困難になっていくだろう。フローの所得格差がストックの資産格差を拡大させ、それがまた資産から得られる収益というフローの格差を拡大させるという格差の拡大再生産が現状では放置されている。
これを防止するためには、超富裕層の保有している資産を捕捉して、適切な課税を行うことが不可欠だ。2018年から預貯金口座とマイナンバーのひも付けが始まったものの、利用者による金融機関へのマイナンバーの提供は義務ではなく任意だ。
内閣府のホームページではマイナンバーの今後のスケジュールについて、「付番開始後3年を目途に、預貯金口座の付番状況を踏まえながら、適切にマイナンバーの提供を受ける方策を検討し、国民の理解を得つつ、必要な措置を講じる予定です」としている。しかし、グリーンカード同様に実現できないまま終わるということもありうる。
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