例えば、アメリカの『フォーブス』誌は毎年日本の長者番付を発表しているが、これによれば今年の日本一の資産家は、ファーストリテイリングの柳井正会長兼社長で、資産額は約2兆3870億円だ。
家計調査の調査世帯数は約8000世帯。『フォーブス』の調査は不動産も含むそうだが、仮に柳井氏の資産のほとんどが金融資産だとすると、柳井氏が調査対象になったら、金融資産額の平均値を3億円近くも押し上げてしまうことになる。
現実問題としては柳井氏が調査対象となる確率は低いうえに、調査に回答するとは思えない。また万一調査に回答するようなことがあっても、2兆円を超える資産家の回答は「外れ値」として除外されてしまい、家計調査における日本の家計の平均資産額に反映されることはなく、1世帯当たりの金融資産が3億円近いという結果が発表されることもない。
一般的な日本の家計がどの程度の金融資産を保有しているのかを調査するという統計作成の目的からは、このような手続きは適切なものだ。しかし、大金持ちの資産が2つの統計の乖離を拡大させている主な原因だとすれば、2014年にトマ・ピケティが『21世紀の資本』で描いたような、資産格差が所得格差を生み、所得格差が資産格差をさらに拡大するという悪循環が日本でも発生していることを意味する。社会的には大きな問題だ。
マイナンバーはプライバシーの問題なのか
マイナンバーカードが普及しない原因として、メディアでは必ずといってよいほどプライバシーの侵害に対する不安が指摘される。しかし、都道府県別のマイナンバーカードの交付率を見ると、東京や神奈川などプライバシー問題に敏感と思われる大都市のほうが交付率は高くなっているため、この説明は説得力に欠ける。
6月1日時点で総務省が発表している数字では、県別では宮崎県が23.2%で最も高いが、東京都は21.5%で第2位、神奈川県は20.2%で第3位だ。市・特別区の中では、東京都からは、港区、台東区、中央区、青梅市の4区市が全国のベスト10に入っている。
国民に固有の番号や記号を付して行政手続きが簡単に行えるようにしたり、政府の中で情報を共有したりすることで住民が何度も同じような手続きをしなくて済むようにするという試みは、これまでもいろいろ行われてきたが、それは挫折の歴史といってよい。
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