金融資産を捕捉しないと格差は是正できない マイナンバーと口座のひも付けが必要なワケ

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こうした中で、社会の歪みを指摘し社会のさまざまな問題に対する行政の対応の遅れを嘆く人たちが、格差問題の改善に欠かせないマイナンバーに対してはプライバシーの問題を持ち出して強く反対しているのは、不可解だ。所得のすべてを給与所得からの源泉徴収を通じて把握されているサラリーマンにとって、いまさら所得や金融資産を政府に把握されたからといって、困ることは一つもない。

このままでは格差は拡大する一方だ

格差問題を改善するために政府に新たな手段を与えれば、それが乱用される危険が生まれるのは確かだ。しかし何もしなければ永久に問題は解決されず、事態は悪化する一方だ。格差が拡大し社会の分裂が修復不可能なほどに深刻なものになる前に対応をする必要がある。

政府や政治家に任せきりにして、多くの人が受動的にしか動かなければ、マイナンバーもグリーンカードと同じ運命をたどるだろう。メディアも有権者も反対しないという消極的な姿勢ではなく、マイナンバーと金融機関の口座のひも付けに前向きの姿勢を示さなければ、われわれは格差問題を改善する手がかりを失ってしまう恐れが大きい。

櫨 浩一 学習院大学 特別客員教授

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はじ こういち / Koichi Haji

1955年生まれ。東京大学理学部卒業。同大学院理学系研究科修士課程修了。1981年経済企画庁(現内閣府)入庁、1992年からニッセイ基礎研究所。2012年同社専務理事。2020年4月より学習院大学経済学部特別客員教授。東京工業大学大学院社会理工学研究科連携教授。著書に『貯蓄率ゼロ経済』(日経ビジネス人文庫)、『日本経済が何をやってもダメな本当の理由』(日本経済新聞出版社、2011年6月)、『日本経済の呪縛―日本を惑わす金融資産という幻想 』(東洋経済新報社、2014年3月)。経済の短期的な動向だけでなく、長期的な構造変化に注目している

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