考えてみると、端数というのは現金決済では小銭が増えるだけで手間のはずだが、スーパーやドラッグストアでは末尾が8や9は当たり前だ。これは、当然おトク感を演出するためのもので、498円という値札のほうが500円より魅力的に感じるからだ。
価格への錯覚として、われわれは基準となる数字からの変化によって「安い」と感じさせられる。100円が基準なら99円、1000円なら980円、2000円なら1980円というようにだ。たかが1円、10円、20円の差額が、お得感を醸し出す。
安さにこだわるサイゼリヤだが、とくに価格については「4」「8」「9」を値段の末尾につけることがコツだと、創業者の正垣泰彦氏はその著書で書いている。というのもメニューの価格を見直す際、350円よりも340円は安いという印象を受けるが、それを330円や320円まで引き下げても、消費者が受けるインパクトは340円と比べそれほど変わらないというのだ(『サイゼリヤ おいしいから売れるのではない 売れているのがおいしい料理だ』より)。
確かに、ハンバーガーのランチセットが390円や380円だとお買い得感があるが、350円だと「ふーん」という感じになる。先述したように、基準になる金額を400円と意識すると、明らかに390円や380円はそれより安いと感じられる。だが、350円まで下がると、いくらからの変化なのかわかりにくく、もともとこの価格なのだろうとしか感じない。
切りのいい数字よりも、ちょっとだけ安い価格。基準点からあまり離れすぎず、その数字の残影が残っている程度の安さのほうが、われわれにとって魅力的にうつるということではないか。
しかし、高級品になるとそうとも言えない。ブランド品や不動産などの場合、一見同じグレードに見えるなら、安いものより高いほうがなぜか安心する。例えば、同じブランドの高級腕時計で30万円のものと29万円のものが並んでいると、30万円のほうを買いたくなるのではないか。さらには33万円のものが隣にあると、もっと悩みそうだ。
不動産価格もこれに近い。買おうと思っているマンションのうち、最安を選ぶのにはやや勇気がいる。基準となる価格より、ちょっと高いほうが安心するから不思議な心理だ。
その人のお金感覚は端数でわかる
端数というと、面白い現象がある。家計診断の記事を作る際に、相談者に毎月の支出を表に記入してもらい、末尾を見るとその人の金銭感覚がなんとなくわかるのだ。
末尾を100円単位で書く人もいれば、ざっくり1000円、1万円単位で書く人もいる。その人のお金を使う単位がいくらなのかがそこに表れてくるわけだ。
もちろん、ざっくりしているから必ずしも浪費家というわけではない。ただし、1万円単位で書く人は、自分がいくらお金を使っているか、あまり意識が向いてないなと感じることは多い。1人暮らしでも日用品が毎月1万円、外食費も数万円という単位。
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