死をタブー視しすぎる日本人の考えにモノ申す 「死を受け入れる」とは一体どういうことなのか

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僕の知り合いの家の庭にケヤキの木があって、秋になると枯れ葉が落ちる。すると、近所のコンビニの店長が「汚いから片付けろ」と怒鳴り込んできて困ったよ、と言うから、「おまえが死んだらそのケヤキの木をどうするか、考えている?」と聞いたんです。

だけど、そんなことはまるで頭にない。自分の死は存在していないこととして扱っています。「自分がどうやって死ぬか」に興味を持つことはあっても、今のうちに準備できることはしようとはしないんです。

小堀:養老先生の何かの記事でいちばん印象に残っているのは、「人間には意識している世界と無意識の世界がある」と。要するに、意識しているものがすべてだと思っているから、意識できないものとかわからないものに対しては目を背けるようなところがある。死についてもそうですね。

気がついたら死んでいた、が理想

養老:僕は「気がついたら死んでいた」がいいです。よく、「死ぬならがんになるのがいい」と言う人がいます。死ぬ前に準備ができるから。だけど僕は、そういうことをしたいとは思いません。行きあたりばったりのほうがいい。

『死を受け入れること 生と死をめぐる対話』(祥伝社)。書影をクリックするとアマゾンのサイトにジャンプします

小堀:僕もまったく同じです。「往診中、車を駐車場に入れたときに」と答えたこともありますが、聞かれればそう言うこともあるだけで、確固たる何かがあるわけではありません。

ただ、病院のベッドで寝ていたくはないですね。朝、検温で愛想の悪いナースに起こされるのは嫌ですから(笑)。そもそも、1日のリズムが決められていますし、ご飯がおいしいとは言えない。だから病院では死にたくないですね。

養老:僕も病院は嫌です。だって禁煙だから(笑)。それに象徴されています。いろんなことをきちんとやらなくてはいけない。ただそれは、やはり家族の状況次第です。

小堀:養老先生のご家族は、養老先生のことをわかっていらっしゃるでしょう。

養老:あの人を病院に入れてもねって。そこら辺で死んどれ、って(笑)。

養老 孟司 解剖学者

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ようろう たけし / Takeshi Youro

1937年鎌倉市生まれ。東京大学医学部を卒業後、解剖学教室に入る。東京大学大学院医学系研究科基礎医学専攻博士課程を修了。95年、東京大学医学部教授を退官後は、北里大学教授、大正大学客員教授を歴任。東京大学名誉教授。『からだの見方』(筑摩書房、1988年)『唯脳論』(青土社、1989年)など著書多数。最新刊は『ものがわかるということ』(祥伝社、2023年)

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小堀 鷗一郎 堀ノ内病院 地域医療センター医師

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こぼり おういちろう / Oichiro Kobori

1938年、東京都生まれ。東京大学医学部医学科卒業。東京大学医学部付属病院第一外科、国立国際医療センター(現国立国際医療研究センター)に外科医として勤務した後、埼玉県新座市の堀ノ内病院に赴任。訪問診療医として400人以上の看取りに関わる。著書に『死を生きた人びと 訪問診療医と355人の患者』(みすず書房)。訪問診療の活動を追ったドキュメンタリー映画『人生をしまう時間』が2019年公開され、話題になる。祖父は森鷗外。

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