「1人10万円」定額給付金をめぐり大混乱した訳 自治体関係者や住民を悩ませた「世帯」概念

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さらに、居住が安定していないホームレスや事実上ネットカフェに寝泊まりしている人々には、自治体によっては窓口で現金を手渡したり、書留で送るなどの対応をとった。

総務省は4月に出した自治体宛の通知の中で、どの自治体にも住民登録がない場合、現在住んでいる自治体で住民票を作成すれば、給付の対象となるなどとしたうえで、「住所の認定については、個別具体の事案に即し、(中略)各市区町村において判断いただく必要がある」と説明している。

結局、住民の口座情報がわかればすべて解決というわけではなく、住民の居住実態や置かれた環境を誰かがしっかり見に行く必要があるというわけだ。

進まぬ銀行口座へのマイナンバー付番

何よりマイナンバーは不人気だ。2015年のマイナンバー法改正により、2018年1月から銀行口座に紐付けることができるようになった。それは義務ではなく任意であることもあって、実際に付番された銀行口座は一部にとどまる。

全国銀行協会によると、2019年12月末時点でマイナンバーを銀行に提出した預金者数は972万。銀行口座総数は約10億口座あるといわれており、この数は多いとは言えまい。

また、国税庁によると、所得税の確定申告でマイナンバーを記載していない割合は2019年で約17%にのぼる。税金の納付のような制度でも、2割弱の納税者がマイナンバーを敬遠している計算だ。給付金を一種の「アメ」にしてマイナンバーと銀行口座を紐付けようという狙いは、本当にうまくいくのだろうか。

マイナンバーで全国民の口座に紐付けできたとしても、「赤ちゃんや子どもの給付金をどうするのか。例えば、夫婦仲の悪い子どもの分の給付金をどちらが受け取ると整理するのか」と自治体の担当者は異口同音に指摘する。結局、マイナンバーも万能ではなく、各家庭や個人の事情をもとに誰かが給付金支給の適否を判断する必要性が残る。

7月1日時点で、給付済みの金額は約9.73兆円。全体の4分の3に相当する4354万世帯が給付済みとなった。新型コロナウイルスの第2波、第3波が予想される中、今回の給付金騒動の教訓は生かされるのだろうか。

山田 徹也 東洋経済 記者

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やまだ てつや / Tetsuya Yamada

島根県出身。毎日新聞社長野支局を経て、東洋経済新報社入社。『金融ビジネス』『週刊東洋経済』各編集部などを経て、2019年1月から東洋経済オンライン編集部に所属。趣味はテニスとスキー、ミステリー、韓国映画、将棋。

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