ビートルズが階級社会のイギリスに残した偉業 「かっこいい音楽」を奏で規範を崩しにかかった
「階級意識」の変容
イギリスには「階級意識」が存在する。
誰もが、上流階級(貴族や大地主や聖職者など)、中流階級(医師や弁護士などの専門職に従事する人たち)、労働者階級(単純労働に従事する人たち)のいずれかに属しているという自覚があり、とりわけ上流階級の人たちは、他の階級の人たちとはペディグリー(血統)が違うと思い込んでいる。
ビートルズの4人は、いわゆる「裕福な家庭」の出ではない。リンゴ・スターは貧乏な家に生まれ、両親は離婚、くわえて小学校もろくすっぽ通えないほど病弱であった。ジョン・レノンは、両親がそれぞれ気ままな生活をしていたため、中流階級の伯母夫婦に育てられ、そのことにより精神的に満たされない少年時代を送っている。ポール・マッカートニーは満ち足りた幼少期を過ごしたが、母の死による喪失感を抱えていた。ジョージ・ハリスンの家庭もけっして裕福ではなく、彼は機械工になるべく育てられたのだった。
はっきりいえば、みな労働者階級の出身である。ポールにいわせれば、ジョンは労働者階級の出ではない(=中流階級出身)のだが、ジョンは労働者階級出身だと思い込んでいた。
イギリスにおいては、中世の封建制度のもとで確立した身分関係としての「階級」が残存するいっぽう、近代の資本主義体制のもとで醸成された職業的・経済的な「階層」も共存している。「階級」と「階層」という概念は、区別されることも混同されることもあるが、ビートルズの4人はそのどちらにおいても“上のほう”にいなかったことだけはたしかである。
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