ビートルズが階級社会のイギリスに残した偉業 「かっこいい音楽」を奏で規範を崩しにかかった
階級は固有の文化と生活習慣をつくりだし、それを継承することがそれぞれの階級の務めだった。階級によって、身だしなみ、紅茶の淹(い)れ方、興じるスポーツ、聴く音楽など、生活全般に及んで、その様式と趣味は異なっていた。
しかし、1950年代になると、そうした事態に変化の兆しが見え始める。経済格差や不平等といった既成秩序に対する反発の声をあげる若者たちが出てきたのだ。「怒れる若者たち」と称される作家たちだ。しかし、彼らは単発的に作品を発表するにとどまり、労働者階級の若者たちを巻き込んだ大きなうねりにはならなかった。
いうまでもなく、ロックンロールは労働者階級の音楽だ。上流および中流の階級の人たちが聴く音楽ではない。ロックンロールなんてものは、彼らにとってみれば、“低俗”そのものであった。
彼らは貧しい身だからこそロックンローラーになった
ビートルズは貧しい身にもかかわらずロックンローラーになったのではない。貧しい身だからこそ、ロックンローラーになったのだ。ここを押さえておかないと、ビートルズという現象を読み間違えてしまうことになる。
「ビートルズ現象」とは、アメリカで産声をあげたロックンロールが、海を渡ったリヴァプールの地でビートルズを生みだし、高級な音楽も低級な音楽もない、とにかく“いいものはいい”という感覚を、階級や階層を超えて個人に認識させたことをいう。ビートルズは「かっこいい音楽」を奏でることで、旧世代の規範を崩しにかかったのだ。
ビートルズは、労働者階級と中流階級の境界をあいまいにし、「ミドルブラウ」(新興中流)という新しい大衆層がたしかに存在することをイギリス国民に実感させた。
ミドルブラウとは、幅広い教養娯楽と洗練されたライフスタイルを享受もしくは実感できる層であり、おもにそれは「下層中流階級」と「中流志向の労働者階級」に顕著であった。ミドルブラウは1920年代のイギリスで生まれた言葉であるが、戦後の経済的豊かさ、教育機会の広がり、メディアの多様性をもって形成されていったのである。そして、ミドルブラウの象徴といえるのがビートルズであった。
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