「銀座は厳しい」人気店女将が語る飲食店の窮状 新型コロナで環境が一変した人気和食店は今

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そうでなくても、リニューアルで手元資金がなくなったところでのコロナ禍だ。知人に頼んで借り、しのいだという。4人の社員は解雇しないで済んでいるが、2~3人のアルバイトにはシフトを減らしてもらった。

6月15日から通常営業を再開したが、満席にはしないで、1日1~2組のみを受け入れている。3面ある窓を開け、今まで大皿盛りで取り分けていたのを、1人分ずつ皿に盛る、アルコール消毒をするなどの対応はしているが、席数半分以下でも値上げをするわけにはいかず、経営が厳しい状況は変わらない。

徐々に通勤する人が増えるなど都会に人は戻りつつあるが、茅島氏は「ハレ」の場でもある銀座の飲食店がかつてのような活気をすぐに取り戻せるとは考えていないという。実際、今でも多くの企業は会食を全面解禁していないうえ、高級クラブなどにも客足は完全に戻っていない。住宅地の飲食店に人出が戻っているからといって、銀座はそうとも限らないのだ。

周りの飲食店の助けにもなりたい

今、構想しているのは、第2波が来るなど次の困難に向けて、急速冷凍機や真空パック機などをクラウドファンディングで資金を集めて買うことだ。「真空パックの料理を全国発送するための、地域のお店が利用できるパッキング・ステーションを作りたい」と茅島氏は言う。「何かやるなら声をかけてくれ」と言ってくれる店は多いという。

「飲食店のビジネスは、5~8%しか利益が出ない薄利多売のもの。それでもやるのは、普通では会えないお客様と対等に話ができ、喜んでいただけるのがうれしいから」と茅島氏。

これだけアイデアを絞り、対策を売って売り上げを確保している店ですら、営業が厳しい。コロナ禍が飲食店にもたらすダメージは計り知れないほど大きいのは明確だ。

飲食店は、働く人の雇用を守る場であるとともに、利用する人の憩いの場であり、日々の食事をまかなう不可欠な場でもある。そこで人が交流することで、新しいビジネスや文化が生まれ、人間関係が深まる。そもそも食自体が文化である。たくさんの人が利用し、喜んでいた店をどうしたら守れるか。地域、国、そして消費者がそれぞれ守る方法を考えなければならない。そして、店舗も自らを守る方法を見つけ出す必要がある。もしかすると、そこから新しいビジネスの可能性が生まれるかもしれない。

阿古 真理 作家・生活史研究家

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あこ まり / Mari Aco

1968年兵庫県生まれ。神戸女学院大学文学部卒業。女性の生き方や家族、食、暮らしをテーマに、ルポを執筆。著書に『『平成・令和 食ブーム総ざらい』(集英社インターナショナル)』『日本外食全史』(亜紀書房)『料理に対する「ねばならない」を捨てたら、うつの自分を受け入れられた』(幻冬舎)など。

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