「銀座は厳しい」人気店女将が語る飲食店の窮状 新型コロナで環境が一変した人気和食店は今

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ウーバーイーツにも登録したが、客の評価が集まった店が上位にくるサイトで、新規の自店は選んでもらいにくい。そこで、従業員の雇用を守るためもあって、2人体制でカーシェアを利用し、23区内で行き先の曜日を決めて宅配することにした。告知と注文はフェイスブックで行う。それ以外の地域は通販対応にした。朝9時に出勤して仕込みをし、午後1時から出発。店にいる2人は、片付けや精算などを行う。

デリバリーを行ってわかったのは、いかに遠くから来店してもらっていたかだ。例えば練馬区大泉だと、銀座から20キロもある。遠方から来ていたのだから、外出自粛になると来られなくなる理由も納得できた。

実際にデリバリーすると、道に迷うなど配達の素人として苦労した。区画ごとに細かく入り口やエレベーターが分かれている高級マンション内で、30分迷ったこともある。しかし、人気は高く、最大で1日12カ所配達した。通販では、「地方の両親に送りたい」という人や、来店したことはないが投稿を見て注文してくれた人もいる。

デリバリーのスタッフが戻ってくるのが午後7時半や8時。9時に退勤。通常営業しているときより、3時間ほど労働時間が前倒しになった感覚だ。

家賃だけでも2カ所で100万円

定番商品だけでは飽きられる、と他店とのコラボ商品も売った。会員制の別の和食店とコラボして自店が6品、相手が10品で2万円のおかず、おつまみなどのセット商品を出す。日本酒とペアリングをしたときもある。今後は、コロナ時代にうまく対応できずにいる、老舗の味を残す意図を含めたコラボも考えているという。

飲食店への国の対応が進まないこと、対策が十分でないことは、テレビなどでもたくさん報道されている。実際、銀座魚勝への支援も足りない。何しろ、家賃だけで2カ所合わせて毎月100万円もかかるのだ。

4丁目の店は6月に閉店したが、銀座の慣行で、退去予告は6カ月前に行う必要があるので、営業しなくても家賃だけは払い続けなければならなかった。値下げ交渉にも応じてもらえなかったため、緊急手段で保証金から償却してもらう形で工面した。一方、普段から付き合いがある㐂津常の大家は、家賃を半額に下げてくれた。

東京都の感染拡大防止協力金は4月末に、国の持続化給付金は5月初めに申請済みだ。東京都のお金は6月に入ったが、国からは7月2日にようやく入った。申請書類は複雑で、4回も書き直している。「もちろん、税理士に頼めばすぐに書類を作ってくれますが、100万円程度のために税理士に頼んだら、手元にほとんどお金が残らないです」。日本政策金融公庫の新型コロナウイルス感染症特別貸付も申し込んだが、面談の順番がこない。

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