「銀座は厳しい」人気店女将が語る飲食店の窮状 新型コロナで環境が一変した人気和食店は今

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営業が厳しくなった店が退去した空き店舗を、中国人がどんどん買っているという噂を聞き、「空き物件はほとんど、中国の方が押さえる。時代の流れだから仕方ないかもしれないけれど、古きよき銀座が姿を変えていくんだ、とゾッとしました」と寂しそうに話す。

その頃は、銀座や新宿、浅草、六本木以外の街では、オフィスが通常営業してまだ大きな影響がなかったのか、周囲の人たちに不安や困難を話しても、なかなか理解してもらえなかったという。

しかし、志村けんさん死去の報道で、ほかの地域の店も状況が似てきた。「みんな一緒だと心が落ち着いて、次の方向へと舵を切ればいいだけだと思えました。わかってもらえないことがいちばんへこんだので」と茅島氏。「ただ、今でもそうですけど、住民が多い町や乗換駅、もともと予約が取りにくい店はそれほどダメージがないようです」。

テイクアウト用に新たないなりを「開発」

こうした中、4月中旬から弥右エ門いなりと、真空パックした料理の販売を開始。6月5日からスナックだったテナントを借りテイクアウト専門店とした。デリバリー、インターネットサイトを立ち上げての通販も始めた。いなりずしは1日20箱程度が売れていく。

いなりずしはもともと、穴子と五目の2種類だったが、コロナ禍で価格が1.5倍ほどになった穴子の仕入れは難しくなっていた。豊洲市場では、高級食材のマグロ、カニ、エビ、アワビは安くなっているが、日常的に店で使うような魚は高騰しているという。

「高級魚は料理屋が営業していないから売れない。一般の人はさばけないから、スーパーへは回せない。漁で獲るだけ損をしかねないから、漁師さんが漁を大きく減らしてしまいました。輸送費も、通販で物を買う人が増えた影響でトラックが足りず、高騰しました」(茅島氏)

そこで別の具材の商品を開発。穴子の代わりに、以前から店で使用していた尾崎牛の「弥左エ門いなり 尾崎牛しぐれ」、8個2593円だ。尾崎牛は、宮崎県の尾崎宗春氏が独自の配合飼料で育てた牛で、肥育期間が通常より長い。茅島氏は「コクも甘みもあるのに脂の融点が低いので、胃もたれしないしアクも出にくい。年配の方でもおいしく召し上がっていただけます」と説明する。

五目の代わりに開発したのは、「はぜる白ごま」1個139円(販売は2個以上から)。具材は白ごまだけのシンプルないなりずしだ。

真空パック入り商品については、実は2年前からの蓄積があった。「おせちを作ってほしい」と客から要望があったが、おせちは通常、日持ちさせるために濃い味付けをする。しかし、濃い味にすると魚勝の味でなくなってしまう。そこで、「迎春おつまみセット」のような商品を開発し、季節ごとに出していくことにしたのだ。行楽弁当を依頼されたこともある。

真空パック用に試作すると、変色するもの、水が出るものなど、真空パックに向かない料理もあり、開発は試行錯誤だった。そうした蓄積があったからこそ、今回テイクアウト向けの商品開発はすぐにできた。以前から店で人気があった「尾崎牛のぴり辛こんにゃく」「カキの山椒オイル煮」「納豆チャーハン」などのセットで、製造日から5日間もつ。

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