小児科医が医者の「悪い知らせ」を悟った瞬間

転移性の大腸がんとの闘病6年で見えたこと

診察室で「悪い知らせ」を察したキャリア25年の小児科医。闘病6年で見えたことは……(写真:andrei_r/iStock)

悪い知らせが待っている──がんの主治医が看護師を連れて診察室に入ってきたのを見て、私は察した。新入りの看護師にシステムの説明をしているところだと医師は言ったが、転移性の大腸がんを診てもらうようになって6年以上、彼が誰かを伴って診察室に入ってきたことなどこれまで一度もなかった。看護師を連れてきたのは、悪い知らせをどう伝えるのか教えるためだ。

私もキャリア25年の小児科医だから、そういう場合の決まりごとは承知している。静かな部屋を選び、率直に伝えること。相手が黙りこくっても受け入れること。ティッシュペーパーと水の入ったコップを用意すること。家族が質問する時間を取り、できるだけきちんと答えること──。

自分も悪い知らせを伝えてきた

私自身、幼い患者の家族に対し、慢性疾患が見つかったとか病状が深刻だとか、息を引き取ったといった話を伝えなければならない場面は何度もあった。そして今、私の主治医はコンピューターと向かい合っていた椅子を回転させ、私のほうへと向かせる。そして腰を下ろすと私と目を合わせ、そばにあるティッシュの箱をちらりと見る。

看護師は医師のすぐ後ろに立ち、体重を片足にかけてはもう片足に移すというのを繰り返している。私は診察台に腰掛ける。2人の友だちも両脇に座り、手を握ってくれる。

肝臓で新しい腫瘍が大きくなっていると主治医は言う。腫瘍はカルシウムに覆われた状態で何年もの間、潜伏していたのだが、がん細胞がその殻を破って飛び出してきたのだ。まだひどい状態にはなっていないし、検査値もバイタルサインも正常だ。だが新たに肝臓に腫瘍が見つかったということは、化学療法はもはや役に立っていないということを意味する。

私はほんの少しの間、患者の立場から一歩踏み出して医師の立場になり、悪い知らせを伝える主治医の腕前は大したものだと感心する。質問はないかと尋ねてくれるし、黙りこんでも許してくれる。私の目から涙があふれると、黙ってティッシュの箱を手渡してくれる。

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