小児科医が医者の「悪い知らせ」を悟った瞬間

転移性の大腸がんとの闘病6年で見えたこと

竜巻が来たのも化学療法が休みの週だった。私はひどい風雨の中、上の娘を車で家まで連れて帰ったのだ。私たちの住む街を通過したときはただの風雨だったから、怖いとは思わなかった。すぐ近くであんなにひどい嵐になろうとは思いもよらなかった。

私たち一行は日なたの倒木のところで一休みする。子どもたちやパートナー、政治やがんについておしゃべりする。

ハイキングの帰り、ドラッグストアに寄ってパスポート用の写真を受け取る。先週、主治医が看護師を伴って診察室に入ってくる前、パスポートの失効が近づいていたので、私と10代の娘たちは証明用写真を撮ったのだった。

再び外国に行くことがあるのだろうかと今週の私は考えている。もっといろんな冒険をしたいと思っていた。娘たちは大人になれば、あちこちを旅することになるに違いない。レジ脇には特大サイズのチョコレートバーが置かれている。2本買う。

夕食の席では娘たちが、私に食事を作る時間があって、一緒に食べられることを不思議がっている。化学療法を受けた日は、夕方まで私が寝ていることを知っているからだ。

「小さいじゃない」と娘たちは言う

私は娘たちに病院で知らされた内容を話して聞かせる。肝臓にがん性の新しい病変があり、それが大きくなっているから化学療法が休みになったと話す。がん細胞の塊の1番大きなものは幅1.5センチくらいだと。娘たちは親指と人差し指を広げ、それがどのくらいの大きさか確かめる。小さいじゃない、と娘たちは言う。

私たちはナスのグラタンとチョコレートを食べる。娘たちは宿題とネットフリックスのために自室に戻る。

化学療法から逃げおおせる病変もあるだろうことは6年前からわかっていた。それが今だなんて悲しい。もっと時間がほしいと思っていたのに。それでも否認する気持ちはない。診察室に連れてこられた看護師も、次回はきっと、悪い知らせを伝えることにもっと慣れていることだろう。

(執筆:Marjorie S. Rosenthal・イェール大学医学大学院准教授、翻訳:村井裕美)

(c) 2020 New York Times News Service

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