小児科医が医者の「悪い知らせ」を悟った瞬間 転移性の大腸がんとの闘病6年で見えたこと

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主治医が治療の次のステップについて話すと、看護師はうなずく。主治医は今後、臨床試験中の薬や新しい治療法について検討するだろう。月曜日になれば、同僚たちと一緒に私の症例について話し合うはずだ。私のスキャン画像を並べ、放射線治療や手術、免疫療法について議論するだろう。そう、可能性について。看護師は前向きな表情でうなずく。

私は主治医のコンピューターの画面に映し出されたスキャン画像を見つめる。彼はマウスを動かし、画像サイズを実物の大きさよりも拡大する。CTスキャン画像にあるがんの薄いグレーの楕円形を指し、肝臓のほかの部分の濃いグレーとの違いを指摘する。

また主治医は、PETスキャンの画像でがんの部分が明るい黄色の輪になっているのを指し示す。肝臓のほかの部分が紫がかったグレーなのでとても目立つ。まだ医学生だったころ、私はこうした画像を現代アートみたいだと思ったものだ。だが今は違う。私は今、このグレーの楕円や黄色い染みが自分の進行がんで、体内に注入された造影剤に反応しているのだと知っている。

化学療法を受けるはずだった日に

主治医は私の化学療法をキャンセルした。次の治療のステップか決まるまで、私はまるで先が見えない状態で、がんの進行におびえることになる。だが化学療法をやらないということは、しばらくは吐き気や下痢、倦怠感に悩まされる日々から解放されるということでもある。病院から帰宅するやベッドに潜り込む必要がないということだ。

化学療法を受けるはずだった日が来た。がんになって、私は忍耐とは何か、自分で自分を制御できないとはどういうことか、そして大切な人々とできるだけ一緒にいるにはどうしたらいいかを学んだ。友だちとのハイキングを企画したらみんな二つ返事で賛成してくれ、車で10分ほどのスリープジャイアント州立公園に行くことになる。

友だちの1人が私の知らないハイキングルートを教えてくれた。川沿いを進み、その後、丘を上がっていくルートだという。

このルートからは、数年前の竜巻で倒れた木々がよく見える。枯れてしまったものもあれば、もじゃもじゃの根が横向きに伸びたり地上で伸びたりして再生しつつあるような木々もある。

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