共働きで「子育てと介護」をする48歳男性の悟り 愛犬の病気も死も理解できない「認知症の母」

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小さいころ母親に置き去りにされたつらい記憶は、男性自身が介護をするうちに変化していった(写真:マハロ/PIXTA)  
子育てと介護が同時期に発生する状態を「ダブルケア」という。ダブルケアについて調べていると、子育てと介護の負担が、親族の中の1人に集中しているケースが散見される。
なぜそのような偏りが起きるのだろう。
連載第9回は、仕事をしながら家事、3人の子どもの育児、認知症の母親の介護を行う男性の事例から、ダブルケアを乗り越えるヒントを探ってみたい。

母親の介護がきっかけで事務職に

神奈川県在住、三井晃之さん(仮名、48歳)は、35歳の妻と小学6年生の長女、4年生の長男、1年生の次男の5人家族。

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障害者施設で働いていた妻は、2014年に次男を出産し、育児休暇を取得。妻の職場は遅番・早番に加え、夜勤も土日勤務もある。2015年に職場復帰するにあたり夫婦で話し合った結果、時間的に融通が利く三井さんが家事・育児をメインで行うことになった。

三井さん自身は、現在はネットワーク製品の開発などを行う会社で事務職をしているが、2016年までの約20年間は、開発に携わる技術者だった。

事務職に転向したきっかけは、現在82歳の母親の介護だ。

母親は、三井さんの家から車で10分ほどの団地で一人暮らしをしている。
2016年までは、週末に三井さん一家が遊びに行くと、母親が手料理を振る舞ってくれた。

母親の飼い犬の名前が「ポン太」だったため、三井さんの3人の子どもたちは、「ポンちゃんばあば」と呼んで慕っていた。2016年の春には、長女は「ポンちゃんばあばんちに泊まる」と言って、楽しみにしていた。

ところが、2016年の夏ごろから母親は、お金や貴重品を失くしては、三井さんや近所に住む自分の妹に「盗ったでしょ!?」と言うようになる。

数秒ごとに同じことを何度も言ったり、随分昔のことを昨日のことのように話したり、コーヒーのいれ方がわからなくなるなど、明らかに様子がおかしい。

しかし三井さんは、仕事と家事・育児に忙しく、母親のことを気にする余裕がなかった。

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