「社会の機能を守るために最前線に立つ『エッセンシャルワーカー』についても、医療専門職の中の正規雇用を除くと、多くが低賃金で非正規雇用といった不安定な立場です。現場に出ざるをえないがゆえにコロナ感染のリスクも高いのに、コロナ禍で、いざというときに国は助けてくれないことが明らかになりました。今後、エッセンシャルワーカーの分野では大変な人手不足に陥り、介護分野などは維持できなくなる可能性が高いです」
国や地方自治体で働く非正規公務員の問題解決を目指しているNPO法人「官製ワーキングプア研究会」は、公共サービスを担うエッセンシャルワーカーにアンケートを実施し、回答者235人の声をまとめた。調査に回答した保育士は「正職員はコロナの特別休暇でほぼ休み(中略)、派遣は通常通どおりの出勤を指示され(た)」と訴えている。2020年4月から適用された同一労働同一賃金の原則は「正規職員との異なる取り扱い」を禁じているが、現実はそうなっていない。
「潤いのない世界」が到来、学力格差も拡大
橋本教授は、自営業者の行く末も懸念する。
「とくに零細自営業者です。飲食や衣料、工芸品とかの『不要・不急』産業は作るほうも売るほうも両方、危ない。自営業者そのものはバブル期以降、大資本との競争に破れて廃業する人の数がどんどん増えていきました。ですから、自営業者の規模は1980年代をピークに縮小している。
その競争に何とか耐えてやってきた自営業者が一定程度いたわけです。自営業者層の減少に歯止めがかかってきたところに、コロナショックがやって来た。再びバタバタ倒れていく状況になっています」
コロナのような外的な要因であっても、経営が立ち行かなくなった自営業者の廃業は仕方ない、との見方もあるだろう。だが、橋本教授は、消費者の暮らしの質に影響する話だと指摘する。
「われわれの生活の最低限の部分は大企業が担えます。飲食であれば、チェーン店でお腹を満足させられる。テレビやパソコンも大企業が製造できる。
でも、それを超えた部分、つまり、趣味の物や工芸品、美術品などは零細の自営業者が作り、販売してきました。それが今、経営規模が小さいというだけで、非常な危機に立たされている。これを放置すると、われわれの社会には大量生産のものしか存在しなくなるという、潤いのない世界になる恐れがあります」
無料会員登録はこちら
ログインはこちら